炎火

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炎火

息を切らせ走ってきた君はそのままの勢いごと私を強く抱きしめた。 「…好きだ。」 ああ…ずっと欲しかった言葉。 少し低めの掠れた君の声が耳の奥まで届く。 「もう…逃げんなよ。」 私を抱きしめる腕の力はさらに強くなって… 待っていた。 この瞬間をずっと待っていた。 君から逃げた癖に君に見つけてもらえるのをずっと待っていた。 「二度と離さないから…」 その言葉に応えるよう君の背中にそっと手を回そうとした時だった。 「 ーーー」 駄目だ。 君はまた私に呪いを掛ける。 その一言で私の心と体は一瞬で動けなくなってしまう。 後少しで君の背中に回りそうだった手はピタリと止まり行き場をなくした思いごと手のひらの中にぎゅっと閉じ込めた。 もし、 もし、この手で今すぐ抱きしめ返すことができたなら… もし、君にこの手に僅かに残る温もりを伝えることが出来たなら… 何かが変わるのだろうか。 見た目によらず逞しい君の腕に抱きしめられながらそんな事を思った。 冷静にならなければ。 そうだ。 恋と呼ぶにも烏滸がましい私の思いはこの湖の底深くに沈めてしまえばいい。 許されるわけがない。 許してはいけない。 だって… 「先生…好きなんだ。」 私の生徒である君はこうしてまた、 呪いを掛ける。 君の痛いくらいにぶつけてくる真っ直ぐさは私を冷静にする。 君の腕の中で私は少しずつ教師としての自分を取り戻す。 大丈夫。 大丈夫と心の中で何度も言い聞かせる。 何処かで鳥が羽ばたく音がした。 終
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