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0 公爵令嬢は目覚める
目が覚めると、見慣れた広くて高い天井があった。
少しも疲れの溜まっていない身体を起こして、ググッと伸びをした。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう、リッカ。
朝の支度をお願い。」
「かしこまりました。
すでに用意は出来ております。」
専属侍女のリッカロッカといつものやり取りをすませ、顔を洗って、服を着替えて、髪を整えてもらう。
これが私、公爵令嬢 フランドール・フィアンマの日常。
そう、『私』の日常。
つまり、『俺』の日常ではない。
ん?え?
どういう事なんだ?
さっきまで研究室に居たはずなのに?
4連休だからと研究室を貸切にして、私事の研究に没頭してて、ろくに飲み食いせず4日程徹夜して急に記憶が途切れたと思ったら、今に至る。
これはあれか?
流石の4徹で睡魔に負けて、夢を見てるのかな?
でも、手の甲をつねってみるとちゃんと痛い。
まあ、痛みを感じる夢も無くはないらしいけど、こんなに現実味を帯びた夢なんてあるのかな。
『私』の今までの記憶もちゃんとある。
もしかして、『俺』原田輝行の方が夢だったのかな?
うーん、そっちもかなりリアルだったんだよなー。
食べ物の味や勉学、研究の内容なんかも全部覚えてる。
夢だったとして、37年分の人生をここまでハッキリしっかり覚えているもんなんだろうか。
はっ、まさか、ネット小説とかでよくある転生とかなんじゃないの!?
…って、そんな厨二病設定ある訳ないか。
非現実的すぎる。
でも、絶対ないとは言いきれないこの状態。
もう、訳わかんなくなってきた。
「お嬢様、随分と考え込まれているようですが、如何なさいましたか?」
「…ねぇリッカ、私、夢を見たの。」
「どのような夢をみられたのですか?」
「異世界の一般人の男性になる夢だったわ。」
「その夢がいかがなさったのですか?」
「とてもリアルな夢だったわ。
まるで、その男性として生きていたかのような。」
「そうだったのですね。」
「ねぇリッカ、他人の人生の記憶や人格、いわば魂が今生きている人に乗り移る、なんて事ってあるのかしら。」
「失礼申し上げますが、それはあり得ません。
魂というものは、肉体が死んでなお、その身体に留まるものです。
悪魔付きならともかく、一般人男性、ましてや異世界の人間の魂が乗り移るなど、考えられません。」
「…そうよね、ありがとうリッカ。」
「とんでもございません。
朝食の準備が出来ておりますよ。」
この世界じゃ魂と身体は文字通り一心同体。
神や悪魔の認識や、魂のないゴースト系の魔物はいても、幽霊や憑依のような魂だけの存在、ついでに言うと異世界は、完全に物語の中だけのもので、現実では絶対にないって事になっている。
でも、『わからない』から有り得ない、と存在を否定しているだけなのかもしれない。
『わからない』
俺の好奇心が疼く!
まぁ一先ず、朝食を食べることにしよう。
私のいつも通りの朝食を。
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