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涼、出逢う
ゴンッ。
「あたっ…」
突然、目の前が真っ暗になった。
星が飛んだような気もしたけど…
「おっ…大丈…………あかん。白目むいとる…」
最後に聞こえたのは、関西弁……?
* * *
「………」
目を開けると、そこは保健室だった。
窓の外からは、歓声と悲鳴。
今日は日野原学園に入学して、初めてのイベント『球技大会』なんだけど。
あたしはチームプレーが得意じゃないから、抜け出そうとして………あー、何かに…ぶつかった…?
寝転んだまま少し頭上に目をやると、五月の陽射し。
何だ。
まだお昼ぐらいか。
「――………」
左方向に寝返りをうとうとして、目が釘付けになった。
男の人が、先生の椅子に座ってギターを磨いてる。
「あ、気ぃついたか。」
…関西弁…?
「……はあ。」
目を合わせたまま、ゆっくり体を起こして。
「…何してるんですか?」
問いかける。
「ああ、弦張り替えてたんや。」
…すごい笑顔。
「よし、終わり…と。さて、悪かったな。」
その人はギターをポンと叩くと、あたしに向き直って頭を下げた。
「え?」
「俺が体育館のドア開けてん。」
「は?」
あたしが「?」って顔してると、その人はあたしに近付いて。
「ここ、傷付けてもうた。」
って、あたしの額に触れた。
…ああ、そっか。
あたし、体育館の裏を走ってて、突然開いたドアに激突したんだ。
ベッドを下りて、鏡で額を見てみると…大きなバンソーコー。
それをゆっくり剥がすと、少しの擦り傷と小さなたんこぶ。
「先輩、なんて名前?」
鏡を見たまま問いかける。
「よう先輩やって分かったなあ。」
「こんな日に制服で保健室でギターの弦張り替えるような勇気、一年生にはないと思うの。」
「なるほど。俺は、浅井 晋。」
「浅井先輩ね。関西の人?」
「ああ。去年引っ越してきた。」
先輩の視線は、ギター。
「ね、先輩。」
あたしが先輩に近付いて顔をのぞきこむと。
「あ。」
先輩が、あたしの前髪をかきあげた。
「えっ?」
ドキッ。
その真剣な視線に…胸が鳴った。
「傷、結構目立つやん。」
…そうなの?
……そうかも。
「…そうでしょ?先輩、責任取って。」
あたし、とんでもない事口にしてた。
「は?」
先輩は呆れた顔。
「先輩、彼女いる?」
「いや、今は。」
「じゃ、責任取ってあたしの彼氏になって。」
「……」
「だって、もしかしたら今から彼氏ができるかもしれないのに、この傷のせいでできないかもしれない。」
かなり強引なあたしの言い分。
正直言って、あたしは恋に落ちた。
この先輩に、一目惚れ。
「本当の彼氏ができるまででいいの。責任取って、あたしに楽しい学園ライフを提供してくれなきゃ。」
「おいおい、おかしゅうないか?たかだか…」
「たかだか?人を傷物にしといて?」
「うっ…」
半ば脅迫。
でも引かない。
だって、あたしには…今しかないんだもん。
「変な女。」
そんなあたしを先輩はじっと見て。
「じゃ、フルネームを伺いましょ。早乙女さん。」
あたしの体操服のネームを指差した。
「涼。早乙女 涼。」
「早乙女 涼…な。」
そう。
早乙女 涼、15歳。
これからバラ色の学園生活が待っている。
かもしれない。
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