第一章 西からの景色

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 高学歴、高身長、あの高収入さてそろえば、一昔前の男ならかなり好条件の三十路目前の女。残念なことに、収入に関しては一般的だ。  それが私、西藤(さいとう)みなみという女。  警察官を父に持つ私は、硬派な家庭に育ち、浮いた話もなく有名大学に進学。大学では修士課程まで進み、卒業後は希望していた大手IT企業への切符を手に入れた。  憧れの仕事にがむしゃら打ち込む毎日を過ごしてきた私は、二十代にして営業課の主任となり、周りの先輩たちを追い越しての昇進に、重責とやりがいを抱えながらの毎日を過ごしていた。  もちろん、仕事にばかり打ち込んでいたわけではない。就職して間もなく付き合い始めた同期の彼と半年ほど前に婚約をしていた私は、傍から見ても、自分で考えてみても順風満帆。非の打ちどころのない人生だと、浮かれていたのだ。  でも――  人生というものはそんなに簡単に幸せな明日へとは向かわないのだろう。前に進むばかりではない。すごろくのように、一瞬でスタート地点に戻されることもある。  神様はいつだって意地悪だ。  順風満帆だったはずの私は、今、これ以上ないくらい暗い気持ちにになっていた。そんな私を見かねた幼馴染みの明里(あけさと)に連れられて、未知の世界に来ている。  
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