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私という人間は、もともと口数の多い方でもない。ホストの話を目を輝かせながら聞くような芸当も、到底出来るわけがない。これ以上の会話が面倒くさくなって助けを求めようと頼みの明里の方に目をやると、この店が行きつけの明里はすっかり馴染みのホストと話し込んで私のことなんてさっぱり忘れてしまっているようだ。
ダメだ、明里はあてにできない……
「はぁ……」
思わず自分でもびっくりするくらい大きなため息が出た。
「あ、ごめん。仕事の話はやめようか、みなみさん背が高くて美人だからモデルとか、芸能界関係の人かと思っちゃったんだ。違ったから逆にびっくりっていうか」
このため息は別に彼に向けたものではなかったのだけれど、勘違いさせてしまったようだ。
まさか、そんなわけないでしょう? と突っ込みを入れたくなるが、我慢我慢。わざわざ食いつく話でもない。この高身長は物心がついてからずっとコンプレックスになっていたのだ、褒めてくれるなんて余計なお世話。
それにしても、ぽんぽんとお世辞が出てくるところはさすが職業柄、きっと私の顔が、一万円札にでも見えているのだろう。
だが、こんなつまらない顔をしている私にも懸命に話を振ってくる目の前の男に、急に申し訳ない気持ちがわいてくることも確かだ。何か面白い話をしようと思ったのだけど……
――ない。
私、全然話すネタがない。
ないわけじゃないけど……今はネガティブな話ばかり。そんな話しは口にしたくないし、そもそも見ず知らずの相手にずけずけ話すような内容ではない。
せっかく、明里が連れてきてくれた場所だけど、今の私にはありがた迷惑というか……正直どうしたらいいのか困ってしまった。
口数が減る代わりにお酒ばかりが進んで頭がくらくらしてくる。まわりの男女が親密そうに絡んでいるのが目にはいって気分が悪い、ダメだ、吐き気がする。
「ねぇ、みなみさん、元気ないね? どうしたの? 俺がなんでも聞いてあげるよ、仕事の愚痴とか、男の愚痴とかなんでもいいからさぁ」
その言葉が、私の逆鱗に触れた――
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