第二章 東からの景色

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 俺が戻ると、みなみさんは大水槽を見つめていた。どこまでも青い、青い、海の世界。彼女は、それを見て何を思っているのだろう。  その表情は、とても穏やかだと思った。見上げるように水槽の前に佇むみなみさんの姿はとても絵になるな――なんて思いながら、少しだけ遠くで眺めて、彼女に声をかける。 「お待たせしてすみません、この水槽、気に入りましたか?」  俺の問いかけにみなみさんはふわっと笑って―― 「この中で泳いでみたいなぁ」  なんて言った。俺は水槽の中に再現された青い海の中を自由に泳ぎ回るみなみさんの姿を想像する。まるで人魚みたいだ。 「私も、前に進まなきゃ」 「俺は、進めそうです」 「うわぁ、すごいなぁ!」  俺たちはまだまだ友達のままでいい。でも、一緒に前に進んでいく人はこの人だと思った。  ねぇ、みなみさん、お互いに気持ちの整理が出来たら、ちょっと、ほんのちょっと前に進んでみてもいいですか?  あなたのことを、好きになってもいいですか?
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