第三章 南からの景色

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 あの幸せな日からたったの六年――これから、長い時を共に歩いてゆけると思った矢先の出来事だ。  俺の余命はあとどれくらいなのか……医者ははっきりと言わなかったが長くて五年――。そう言っているように感じた。  みなみは余命幾ばくもない俺を捨てるような女じゃない。このままみなみと結婚したら、間違いなく俺は幸せな余生を送ることができる。そして、きっと今以上に死ぬのが怖くて怖くてたまらなくなる。  俺が死んだら、遺されたみなみはどうなるのだろうか……駄目だ、こういうのは先に逝く人間よりも、遺された人間の方が何倍も辛いものだ。  両親を事故と病とで早くに亡くした俺は、そのことが痛いくらいにわかっていた。置いて行かれる方が、辛いに決まっている――  もう、みなみを幸せにできるのは俺ではなくなった――そう思うと心が凍ったように冷たくなった。  病院のソファに長いこと腰かけて考えあぐねた上に、みなみと別れようと決めた。  断腸の思いだった。
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