第一部

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 出会ってから一年と少しが経った。詩織との交際も順調に月日を重ね、つい最近半年を迎えた。とはいっても詩織と呼べるようになったのもここ最近。会う数は付き合う前から圧倒的に増えたものの、やっていることは付き合う前と同じ。SFの話では盛り上がるけど、それ以外はさっぱり。詩織の好きな色さえ聞き出せてない。  それでもやらなければならないことは次々にやってくる。大学四年生になった俺たちは将来について考えなければないない時期だった。俺は文学部、詩織は経営学部、と互いに文系だったので就職活動がメインになる。詩織と会える機会も減ってしまうのだろう。今日はそういった話をすることになってしまうのだと思っていた。そのはずだった。  そして突然のことは予期なくやってくる。  「私、実家に戻るの。実家が呉服屋でその後を継ぐつもりで経営を学びに大学へ来たの。両親は継がなくてもいいなんて言ってるけど、正直売り上げも落ちてて実家を失くしたくはないもの。」  その後は「大悟は就職?」とか「遠距離恋愛になっちゃうね。」とか言ってたけど正直ついていけなかった。分かったのは明日には一度、実家に戻るってことだけ。流れるままその時は解散になった。  その日の夜はいつもよりも長かった。  詩織の実家は青森にある。大学からは新幹線、電車、バスを乗り継いで、早くても四時間はかかる。俺が着くのは午後六時を過ぎそうだ。これが昨晩考えた答えだった。会ってどうなるのかもどうするのかも分からない。それでも会って話したかった。昨日のままで話を終わらせちゃいけないと思った、俺の思いを伝えないまま終わるわけにはいかなかった。  青森に着いてからは詩織に連絡をとって待ち合わせることにした。向こうは驚いた様子だったけど、すぐに了承してくれた。土地勘のない俺のために詩織が出向いてくれることになった。  遠くの方から詩織が見えた。俺の方に疑問を顔に浮かべた様子で近づいてくる。「どうしたの?」なんて質問を繰り出そうとする詩織の肩を引き寄せて抱きしめる。吐息が当たるくらい耳元まで口を近づけた。
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