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今思うと、あの日彼が急に私に聞いた質問は、もう自分が永くないとどこかで感じていた故なのだろうか。今となっては確認のしようがない。
『生まれ変わったらなにになりたい?』
あの日、私は自分の答えに納得できなかった。
死を常に傍らに携えて、それでいてなお、いやだからこそ生に誰よりもしがみつき、生きることに希望を持つ彼は、あまりにも美しかった。私はそんな彼が眩しかったのだろう。
だからこそ、あの漠然とした答えに私は、、満足しなかったのだ。そんな彼に、こんな答えを出すのはどこか申し訳なかったのだ。
彼が死んだとき、私は涙が出なかった。
彼の死が信じられなかったわけではない。ただ、私が悲しまなくとも、彼の死を多くの人が悲しんだ。嘆いた。
それはあの日、彼が言っていた桜の終わりのように。
ああ、あなたは桜だったんだ。
あなたが生まれたとき、きっとあなたを待ちわびた多くの人が喜んだ。
そしてあなたが人生に終止符を打った時、多くの人が悲しみ、そして「今までお疲れ様、ありがとう。」と感謝をした。
あなたの人生はまるで桜だ、と気づいてしまったから。だから私は悲しくなんてなかった。
桜が、次の春を待つように。何度でもまた咲くことができるように。
きっと彼もまた、何度でも咲き続ける。
私はただ、次の春を待てばいい。桜になりたいと言っていた彼が、きっと春の訪れを教えてくれるから。
あの桜の木を、芝生に四肢を投げ出して見上げる。
「ねえ、私なにになりたいか、決めたよ。私はね、生まれ変わったら──」
その時私の横に、一枚の桜の花びらが舞い降りた。その桜は、どこかやさしくて、暖かかった。
思わず頬が緩むのを感じる。そうだね、約束したものね。
まだ外は肌寒い季節なのに、私は寒くなんてなかった。いるはずのない彼のぬくもりを、私は感じた。
桜の香りが鼻腔をくすぐる。暖かい、春の香りだ。私の大好きな、春の香りだ。
優しいぬくもりと、暖かい香り。私は全身で春の訪れを感じていた。
どうか目が覚めても、このぬくもりが、暖かさが、終わりませんように。
薄れゆく意識に身を任せたとき、笑顔の彼に逢えた気がした。
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