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彼の言葉 1
やがて彼が大きな声であたしの名を呼び、こちらへ駆けてくるのが見えた。
あたしも大きく手を振る。
彼はあたしを苦しいほどに抱きしめる。
あたしは両腕を拘束され、彼の背に手を回したいのに身体が硬直したようになってしまう。
「ありがとう!
君のおかげだよ!」
彼は耳元で嬉しそうに言う。
「どういたしまして…」と言いかけて、何が?と疑問に思う。
「あの…」
彼の言葉の意味を訊こうとするけど、彼はあたしをぎゅっと抱きしめたまま熱に浮かされたように言葉を続ける。
「さっきコンテストの実行委員会から電話が来て、俺と彼女の作品がグランプリを取ったって…
すごいよ!『プレリュード』の、俺たちのケーキが東京に進出できるんだ!」
「あ…そうなんだ…?」
あたしはすごい!やったね!と喜びたいけれど、彼の『俺と彼女』という言葉に引っかかって、続きが出ない。
彼は身体を離し、あたしの両肩をつかんで嬉しそうに言った。
「君の惜しみない応援のおかげだよ。
君は本当に頼りになるサポーターだ!」
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