笑った顔

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*** 「ああ~~!もう、まじでめんどくせえ!なんで俺が実行委員会なんか‥‥。今日部活休みの日なのに‥帰って好きなだけゲームできる日なのに‥」 「後期委員会決めの時間に寝てた江本が悪いでしょー。ちなみに俺は1番楽な環境委員~」 「まじかよお前、環境委員とか何も仕事ねえじゃん。いいなー‥ていうか、やっぱおれ寝てた?」 「寝てた寝てた。ガッツリ寝てた」  俺はリュックにノートや教科書を詰めこみながら、はぁ~~と深いため息をついた。  オレンジ色の使い古したボロボロのリュックを背負い、学校指定のジャージ姿の佐藤が、いつも寝てばっかいるバチが当たったんだぞ、と馬鹿にしたように笑う。  佐藤はいつも帰宅するとき、わざわざジャージに着替えてから学校を出る。家まで自転車を漕ぐのに、制服だと動きにくくスピードが出せないらしい。佐藤の完全な「今から帰宅します」という格好を見て、またため息が出る。  こんなに帰宅部のこいつを羨ましいと思ったことはない。  俺だって早く帰ってゲームしてえよ‥。 「まあまあ、とりあえず頑張れよ!‥ほら、ちょうど瀬戸も実行委員なんだろ?いいチャンスじゃん!」 「いや、チャンスってなんだよ‥。そもそも俺、瀬戸とほとんど話したことないし、どう関わっていいか分かんねーよ」 「だーかーらー、お得意の変顔でもして爆笑させてみろって!で、もし瀬戸が笑ったらどんな顔だったか教えてくれよな。もしこれで笑った顔もイケメンとかだったら俺に勝ち目はない‥」 「まだその話かよ!いややらねーよ変顔得意ってなんだし!‥てかお前瀬戸に何勝手に対抗心燃やしてんだよ‥背低くて帰宅部の時点でお前、勝負になってねーから!」 「ノリツッコミ乙~って、ひど!江本くん毒舌~俺泣いちゃう!」  そう言って、うえ''ぇ~んとめんどくさい女子のような泣き真似をする佐藤に思わずブハッと吹き出す。 「お前っそれやめろ!w」 「うえ''え''ぇ~ん、‥かわいいだろ?」 「ぶふっwwいや全然かわいくねえよ?!」 「おい、江本。」  爆笑しながらふざけあっていた俺たちの後ろから、そんな空気を立ちきるように冷たい声が俺の名前を呼んだ。  振り替えると、真っ黒な死んだ魚のような目をした‥イケメン、いや、瀬戸が立っていた。黒い大きなリュックを背負い、右手には体育館シューズの入った袋を持って。そしてもちろん、無表情で。    先程までの空気が瀬戸のおかげでガラリと冷えきった。 「そろそろ行かないと遅れるぞ」  瀬戸は変わらず静かな声でそう言うと、俺の目をジッと見つめた。  ただ見つめられているだけなのに、この光のない目で見つめられると、体の内側まで見透かされているような気持ちになる。  教室を見渡すと、俺たち意外みんないなくなっていた。いつの間にかみんな帰ったらしい。  どうやら佐藤との話に夢中になっていて、瀬戸を待たせていたようだ。   「あ、‥あぁ、そうだな、ごめんごめん。じゃあ俺もう行くわ。佐藤、また明日な」 「お、おー。またなー‥」  なんとも言えない表情を浮かべている佐藤に手を振り、俺は自分のリュックを背負うと瀬戸と共に教室を出た。  先に行っててくれてもよかったんだけど。まあ先生に、俺をちゃんと連れてこいって言われたからか。瀬戸ってすげぇ真面目な奴だな。  俺は黙ったまま隣を歩く瀬戸を、横目で見ながら心の中で呟いた。  先程まで佐藤とゲラゲラ笑いあっていたため、瀬戸との空気がやけに静かに感じる。    なんかすげー気まずい‥。   「あーえっと、ごめんな、待っててくれたんだろ?声かけてくれてほんとよかったわ、集まり初日に遅刻とか、絶対先輩怒るもんな~ハハハ」  俺はこの気まずい沈黙を破ろうと、いつもより少し明るいトーンで声をかける。 「先生に言われたから声をかけただけだ。」  こちらを見ることもせずに、瀬戸が言う。  あ、やっぱりそうですよね、はいはい。てかなにその言い方、ちょっと冷たくね?もしかして俺が待たせたこと、怒ってんのか? 「あーそっか、たしかに言われてたもんな。‥‥ていうか俺と瀬戸ってあんまり話したことないからさ、俺瀬戸のこと全然知らないんだよなー。趣味とかあんの?」 「趣味‥特にない。」  いや、なかったとしても、適当に興味あるものくらい言えよ!特にないなんて言われたら、こっちだって何て返していいかわかんねえだろ、あぁそうですか、としか言えねえよ! 「あーまじか‥‥。えっとー‥俺はゲームとか好きなんだけどさ、瀬戸はゲームとかしねーの?スマホゲームとか。」 「しない。」 「そっかあ、あ、あのさ、すげえオススメのゲームあるんだけど、やってみろよ!瀬戸みたいな初心者でもできるやつだし、課金しなくてもある程度進められるし。パズル解いてモンスター倒すみたいなやつなんだけど、」 「‥‥」 「あ、ごめん、興味ない?」 「ないな」  ああそうですかそうですか。  まあいいよ別に本気でやってほしいとも思ってないし。でもさ、言い方ってもんがあるだろ。こっちは必死にお前と少しでも仲良くなろうと努力してんだぞ!?   「‥‥」  また沈黙。  もう何を言っても冷たく返されるだけの気がして、話す気も起こらない。  無表情で無口な奴だとは思っていたが、こんな冷たい奴だったのか。なるほど、どんなにイケメンでも、人が寄り付かないワケが分かった。  それとも、こんなに冷たいのは俺にだけなのか?こいつ俺が嫌いなのか?? 「‥瀬戸さ、さっき待たせたこと、怒ってる?」  今までほとんど関わったことのない俺が、瀬戸に嫌われる理由は思い付かない。が、もし俺に対して良い感情を持っていなかったとしたら、原因は先程少しばかり待たせてしまったことくらいだろう。  おそるおそる聞いてみると、 「別に怒ってない」  そう表情を変えることなく瀬戸は言った。目線も合わせず、前を向いたまま。  いやぜっったい怒ってるだろ!!本当に怒ってないときは、真顔で「怒ってない」なんて言わない、怒ってる、これは確実に怒ってる。あーーもうめんどくせえー、実行委員会もめんどくさいのに、めんどくさいの2乗だ  俺ははぁ‥とため息をついた。今日何度目のため息だろう。  またしばらくの気まずい沈黙に耐え、ようやく集合場所である生物室の前の廊下までやって来た。  
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