笑った顔

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 太井先生の呼びかけで、先輩も後輩も皆それぞれ席に座る。  もしかしてプーさん文化祭担当なのかな?最高じゃん、という先輩達の嬉しそうな声が聞こえてくる。太井先生は去年、二年生、つまり今の三年生の体育の授業を担当していたため、先輩達に人気がある。ユーモアがあって優しくて世話焼きな太井先生。先生というよりどちらかというと親戚のお兄さん、という感じで、他の先生よりも接しやすい。俺も太井先生のことが好きだ。  太井先生は実行委員が全員揃っていることを確認すると、にこっと愛嬌のある優しい笑顔を浮かべた。 「文化祭担当になった太井です。三年生はみんな知ってるだろうけど、一年生や二年生はもしかしたら初めて見てって人もいるかもしれませんね。体育を担当しています。よろしくお願いします。」 「「よろしくお願いしまーす」」 「はい、よろしく。みなさん、部活や塾、アルバイトがある人もいたと思いますが、今日は集まってくれてありがとう。ここにいるみんなで協力して、楽しい文化祭を作り上げていきましょう。今日のように、放課後、集まることが増えると思いますが、なるべくこうやって全員揃うといいですね」  去年の文化祭の様子の話や、準備についての大まかな説明をした後、太井先生は俺達に一人ずつ自己紹介をするように言った。  学年とクラス、名前、そして最後に、みんなに向けて一言。簡単な自己紹介だ。  先輩達の少しおふざけを入れたお茶目な自己紹介が終わり、次は二年生、俺達の番だ。俺たちは3組だから、三番目。  一組の生徒が立ち上がって自己紹介しているときだった。 「江本」  瀬戸が小声で俺の名前を呼んだ。  驚いて瀬戸の方を見る。俺も小声で答える。 「な、なに?」 「‥一言っていうのは、何を言えばいいんだ」  瀬戸が少し早口で言う。  え、一言?それはつまり自己紹介の、最後の一言のことか?まあ、それしかないか。   「え、え~‥テキトーに?文化祭への意気込みとか、言えばいいのかなって思ってたんだけど」 「‥‥意気込み、か」 「例えば、がんばります、よろしくお願いします、とか?そういう簡単な感じでいいんじゃないの」 「‥‥‥」  瀬戸は黙って、うつむいた。  え?なんでこんなこと聞いたんだ?こいつってこういうの、サラっとクールにできそうだけど。  ‥もしかして、こういう、人前で何か言うのとか、苦手?  いやいや、そんなわけない。  いつも無表情で、淡白で、何でもクールにやってのけちゃう奴だ。みんなの前での自己紹介で、恥ずかしくなって顔真っ赤にしたり、緊張で声震わせたりするやつがいるけど、瀬戸はそんなやつじゃない。 「じゃあ次、三組」  太井先生が俺と瀬戸を見ながら言った。  俺ははい、と返事をして、立ち上がり、手を後ろで組んだ。窓側の席の森田先輩が、俺を見てニヤニヤしている。 「二年三組の、江本辰也です。実行委員とかはじめてなんで、分からないこととか多いと思うんですけど、先輩達に色々聞いたりしながら、自分なりに頑張りたいです。よろしくお願いします。」  ぺこ、と軽く頭を下げ、席に座る。パチパチ、という拍手がなんだか少し照れくさい。  じゃあ次、隣の‥と太井先生は瀬戸を見ながら言う。  瀬戸ははい、と返事をして立ち上がった。  あの先輩かっこいい、ほんとだー、と近くに座っていた後輩たちが話す声が聞こえてきた。前に座っている2組と1組の女子も振り返り、瀬戸を見つめて顔を赤らめている。  はあ、モテるってすげぇな‥。いっつもこんな反応ばっかじゃん。 「‥‥三組の瀬戸俊です。頑張ります、よろしくお願いします。」  パチパチパチパチ。  俺の時より少し拍手が大きい気がするんですが、気のせいでしょうか。  短い自己紹介を終えた瀬戸が席に座る。  めっちゃクールじゃん!かっこよすぎ、と後輩たちははしゃいでいる。  いやたしかに短い自己紹介で、他から見たらクールだったかもしれないけど‥。  瀬戸、俺の例えをそのまま言っただけじゃないか。  やっぱり、こういう自己紹介とか、苦手なのか?‥いやいや、単に、言うことを考えるのがめんどくさかっただけかもしれない。だから俺に聞いて、俺の例えをそのまま言った。それだけかもしれない。うん、たぶんそうだろう。  
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