笑った顔

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 長くかかると思いきや、自己紹介と準備の大まかな流れの説明だけで今日はすぐに解散となった。  毎週一、二回放課後に生物室で集まり、生徒会や先生のサポートを受けながら計画を立てていくらしい。  文化祭の準備の話に盛り上がっている森田先輩たちに軽く挨拶をして、俺と瀬戸は生物室を出た。    隣にいるのが佐藤だったら、あ~早めに終わって良かったわ~帰ってゲームしようぜ!と肩に腕を回しているだろう。しかし瀬戸にそんなことをやったところで、無視をされるか、もしくはやめろと腕を振り払われるだろう。どっちにしろ気まずくなるだけだ。  俺たちはやっぱり無言で廊下を歩いた。  人気のない静かな廊下に、上履きの音が響く。外の校庭からは陸上部の笛の音が聞こえている。 「文化祭‥俺は、お化け屋敷がしたい」  瀬戸がぽつりと言う。  そんなに大きな声ではなかったが、周りが静かなせいで、思わず俺はびくっと肩を震わせた。   え、いきなり‥?  いや、いきなりというか‥‥そうだ、話し合いが始まる前、瀬戸と文化祭の話をしていたんだった。  俺が、瀬戸は文化祭で何がしたいかと聞いたとき、瀬戸が黙って返事をしなかったから、無視をしたのかそれとも聞こえていないのかと思っていたけど‥。 「江本、聞いただろ。何がしたいかって‥。ずっと考えてたんだが‥俺はお化け屋敷がしたい」    もう一度、瀬戸が言う。  てことは、あの無言は、無視してたわけでも聞こえてなかったわけでもなく、なにがしたいのか考えてたってことか。  やりたいことが思い付かなければ、わかんねーと適当に返せばいいのに、ずっと律儀に考えてたってわけ?  それに、したいことがお化け屋敷って‥。  俺はブフッと吹き出した。    瀬戸がほんの少しだけ目を見開き、俺を見る。どうやらいきなり笑いだした俺に驚いたようだ。いつも全く表情を変えない瀬戸には、珍しい表情だった。 「お前、お化け屋敷やりたいのかよっ!意外すぎるだろ!」  俺は笑いながら瀬戸の背中を叩いた。 「‥何か変か?」  瀬戸が、ひーひーと笑っている俺を見て不思議そうな声で言う。 「だってお前真面目だし、実験発表とかそういうのかと思ったんだよ、なのに‥お化け屋敷って!意外だわ!なに、お前そういうの好きなの?」 「好き‥というか‥やったこともないし入ったこともないが、お化け役は面白そうだと思って‥」 「お前がお化け役とか想像つかねぇよ!意外と怖いかもな~‥なあ、ちょっとやってみてくれよ!」  勢いでそう言うと、瀬戸がその場に立ち止まった。無表情のまま、空を見つめる。  あ、やべ、勢いでやってみろなんて言っちゃったけど‥怒らせた?  と、俺の心がサアッと冷めきろうとしたとき、  立ちすくんでいた瀬戸は、何かを思い付いたように、ぱっと両手を胸の高さまで上げた。  そして上げた両手の、全部の指先を曲げると、   「‥‥ガオー‥‥?」  と、迫力のない声で言った。もちろん、無表情のまま。  
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