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「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
今までの気まずい沈黙とはまたひと味違う沈黙。
え、幽霊の鳴き声(?)って、ガオーなのか?
ガオーって、ライオンとか恐竜とかじゃね?
という疑問よりも、
なんだこいつ、かわいい。
そう本気で思ってしまった自分を殺したい。
いや、男にかわいいとか。いやいやいや。それも無口無表情無愛想の、この男に。
いやそれ幽霊じゃねーだろ!とツッコミを入れなくては。と、思っているのに、なんだかうまくいかない。
だってこんなの、不意討ちすぎる。
「‥‥‥わ、悪い。今の忘れてくれ‥‥」
沈黙を破ったのは、またもや瀬戸。
震える声でそういいながら、目の前のイケメンは、顔を真っ赤にした。
まて、お前そんな顔もできたのか。照れるとか、そんなことできたのか。
見たことのない、瀬戸のその表情を思わず見つめてしまう。
だって、その照れた顔も「かわいい」と思ってしまったから。
‥‥‥って、いやいや、あー、やっぱり今日の俺はなんだかおかしい。
「‥‥見るなよ」
と、瀬戸は恥ずかしそうに言って、片手で口元を隠した。
いや、今まで見たことのない、学校一のイケメンの照れ顔だぞ?
見るなと言われても、目が勝手に見つめてしまうんだから、しょうがないだろ。
とはさすがに言えず、「あ、ご、ごめん」と言って、俺は急いで瀬戸の顔から目を反らした。
なんだこの空気‥‥やばい、何かがやばい。
「‥‥幽霊は普通、ガオーじゃねーだろ。お前お化け役向いてねーよ!」
この焦れったいような空気に耐えられなくて、俺は無理矢理にそう声を張り上げて笑った。
瀬戸はまだほんのり顔を赤らめたまま、「うるさい」と呟くように言った。
‥‥瀬戸ってこんな奴だっけ?
俺は瀬戸に、何か大きな勘違いをしていたようだ。
瀬戸は無口で、無表情で、無愛想。
だけどどうやら、それだけじゃない。
『あいつの笑った顔、見たことある?』
『見てみたいと思わねぇ?』
佐藤の言葉を思い出す。
おい、佐藤。笑った顔より先に、照れた顔を見ちまったよ、俺。
イケメンの照れた顔は、「イケメン」じゃない。
イケメンの照れた顔は「可愛い」。
なんて、こんなの誰に言えるかよ。
隣を歩く瀬戸の顔が、ろくに見れない。
はあ、俺、なんでこんなにドキドキしてるんだ。瀬戸相手に。
これも全部、こいつがイケメンなのが悪い、ということにしておこう。
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