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その36.魔法の国よりの使者
ハイウェイを走る事三時間で程でテューダー・エアポートに到着した。
空港の駐車場に車を止め、私達は空港へ急いだ。ヴァロア王はもう到着したらしく、ロビーでテイクアウトのカフェ・オ・レを飲みながら待っていた。
「よおっ、サミュエル!!。久し振りだな。」「ご無沙汰しています。」
「・・・こちらは、ノイシュヴァン王の忘れ形見で、ええと・・・。」
「デューク・ロニエール、です。」
自己紹介したが、ヴァロア王にはピンとこないようだ。私が民間人になった事は周知のはずだが。
「フリードリッヒ王、か、元は。」「・・・まあ、そうですが。」
その時、私はすぐ側に不思議な雰囲気をかもし出す少年の姿に気付いた。
「守護神ヴルドー?。」
「流石はサント・マルスの国の王。王家の血筋は健在ですね。」
少年、いや少年の姿をした守護神は答えた。
「まあ、ここで立ち話もなんですから話の出来る場所へ行きましょう。」
サミュエル皇太子がそう言って皆を案内した。
「・・・あのお兄さん、コスプレってやつかなあ。」
「だよねー。神サマってのは分かるけどぉ、あの格好、絶対浮いてるよね。」
娘とマリナの会話を私は苦笑いしながら聞いていた。話のネタは勿論守護神
ヴルドーだ。
空港の特別室を借りて我々は話を始めた。開口一番ヴァロア王が我々に
尋ねた。
「フリードリッヒと話がある、と思っていたら何故かヴリティエにいるし
しかもこんな田舎町で待ち合わせとは、一体どういう事か説明して欲しいん
だが。」
先に質問したかったのはこっちなのだが、まず事の成り行きもあるので
今までの経緯を説明した。
「成るほど・・・倭国のテレビ局ねえ。小箱の事については以前から知ってはいたが、アレは永遠に開けられないものだと思っていたよ。」
少し考え、私はある事をヴァロア王に尋ねてみた。
「王は魔法を使う事は出来ますか?。」
「何をいきなり言い出すかと思ったら・・・そいつは無理な話だ。」
やはりか、とは思ったが。
「ところで、ヴァロア王は何故ロニエールさんと話をしたかったの
ですか?。」
サミュエル皇太子は私の代わりにヴァロア王に尋ねた。するとヴァロア王の
代わりに守護神ヴルドーが答えた。
「この星に危機が訪れているのは皆さんご存知かとは思いますが、我が
創造主大陸神ユーラントによって我々も危機を知った。
私も王と共にこの星の危機を伝え、世界全体でこの危機を乗り切ろうと
した。しかし、我が国の指導者は耳を貸す事はない。ならばそれに協力
してくれるであろう者達と手を取り合ってこの星を守ろうという次第
です。と言う訳で、サント・マルスの国の王よ。お互い歩み寄ってこの
星を守れないかという提案なのですが。」
すると皆の視線が私に集中した。
「やはりそうですか。協力者は一人でも多い方がいい。」
「ならば話が早い。我々はまず何をすべきなのだ?。」
ヴァロア王は質問してきた。私は暫く考えた。
「今我々に協力してくれる国はええと、ヴリティエ、ソルレイズ、
それからメリアナなのですが・・・。」
「メリアナか・・・。そういえば大統領がアルデキアでテロに襲われた
らしいな。」
「ええ、我々もまだ無事かどうかは確認していないのですが・・・。」
「あれだけ動画で訴えてるってのに、テロなんかやってる場合じゃない
だろうって。」
「それはそうですが・・・。まずオリュエかキエリア。ヴルドーニュは
キエリスレンコ連邦共和国だったからキエリアやその近隣の国々へ呼びかけ
られないでしょうか。」
「成る程な。分った。・・・ところでお前達はこれからどうするんだ?。」
「先ほども話したとおり小箱を開けられるかもしれないという事で、その
例の魔導士の子孫にこれから逢いに行くところです。」
「・・・そっちの方が面白そうだな。」
ヴァロア王の独り言は私にも聞こえた。
「いえ、王は一刻も早く協力してくださる方を探して下さい。こちらは
我々で何とかしますから。」
そう言って王を宥めた。
守護神ヴルドーは娘の方に近づいて来た。
「お嬢さん、手を貸して。」「えっ・・・。」
一瞬躊躇い娘は私と妻の顔を交互に見た。私は深く頷いた。娘は片手を差し
出した。守護神ヴルドーは娘の手を両手で握り、念を送った。そしてすぐ
手を離した。娘は掌を見ると驚いたように私達の元へ来て手を見せた。
そこにはヴルドーニュ王国の国章に描かれている守護神ヴルドーの痣が
くっきりと印されている。
「これで我々と連絡を取り合う事が出来る。何か分かったらこれに念を
送ればすぐ我々に伝える事が出来る。」
守護神ヴルドーはもう一度娘の方を見た。
「お嬢さん。今度会う時は人間の格好をしてくればいいのかな。」
そう聞かれて、娘は答えに戸惑った。
ヴァロア王と別れ、我々はダークフォレストを目指す。途中から道は舗装
されておらず泥だらけのでこぼこ道を進む。サミュエル皇太子は、洗車した
ばかりなのにとため息をつく。最初は世間話などしていたが、車の下回りが
汚れる度皇太子は無口になってゆく。何となくこの状況を打開しようと私は
皇太子に話し掛けた。
「皇太子は・・・休暇か何かだったのですか?。」
「ええ、けど無理矢理ね。父に頼まれまして・・・。ロニエールさんの
案内をしてくれと。」
それを聞いて私は内心ヒヤッとしたが、皇太子は笑顔を見せてくれたので
ほっとした。「サミュエルはねえ。」マリナが話を始める。
「ヴリティエ海軍に所属しているのは有名なんだけど・・・。」
「ああ、知っている。」
「ホントは空軍に入隊したかったらしいんだけど、大臣達に反対されて。
危険だからって。」
皇太子はそれを苦笑いしながら聞いている。
「飛行機が大好きで、初等学校の時に『大きくなったらパイロットに
なりたい。』って作文に書いたくらいなりたかった。ヴリティエ王族は
二百年ほど前から王位を継ぐ為の準備期間として軍隊何年か所属する決まりがあるのです。仕方なく空軍は諦めて海軍に入隊した訳です。弟のモンギュー・ブライアンも同じ理由で空軍を諦めましてね。」
そんな話をしているうちにカーナビのアナウンスが到着を告げた。
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