サント・マルスと大陸の覇王 巻の5

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 その37.魔導士の集落  ダークフォレストはその名の通り、鬱蒼とした森の中にその集落はあった。 その集落の代表者には連絡はしてあると言うので我々はその人の家 向かった。「ようこそ。」 集落の族長らしき人物が挨拶してくれた。私達も丁寧に挨拶した。 「早速ですが・・・。」 家の中に通され、席に着いた私は早速話を持ち出した。そして例の小箱を 族長に渡した。 「これが・・・。ネットの動画で拝見しました。」 私は少し驚いた。こんな集落まで文明の利器が使われている事を。逆に 文明が浸透しすぎて魔法が使えないのでは、という不安に駆られた。  そんな心配をよそに、族長は小箱に手を翳している。 「かなり強力な魔法が掛けられていそうですね。私には手に負えんかも しれん。」「・・・そうなのですか。」 ここまで来て・・・。私はがっくりと肩を落とした。 「お待ち下さい。この集落に住む長老なら開けられるかもしれない。」 「ほ、本当ですか!!。」 私は思わず立ち上がった。 「ただ・・・一筋縄ではいかないかもしれません。」 そう言われ、私は考えた。けどここまで来たのだし、他に頼りになるものは ない。そう思い、族長に案内を頼んだ。  族長に連れてこられたのはかなり古い家、というよりも小屋のような建物の 中。「ばあちゃん。」 族長に呼ばれ、振り向いたのは九十歳を越えているのではないかとさえ思う 老婆だった。「・・・誰か、来たのかい?。」 族長は今度は老婆の耳元で喋った。 この人たちがぁ、ばあちゃんのぉ、魔法でぇこの箱をぉ、開けて欲しいんだ そうだぁ。」 どうやらその老婆、いや魔導士は耳が遠いらしい。 「会話するのが大変そうね。」妻は私に囁いた。 一筋縄ではいかないとはこの事なのか。そう思い頷いた。 「で、ご飯はまだかい?。さっきからここで待ってろって言われてたが。」 それを聞いて私達は目が点になった。 「さっき食べたばかりじゃないのか?。」 族長は世話人らしき女性に話し掛けた。すると女性は老魔導士の耳を掴み、 叫んだ。 「おばあちゃん!!。ご飯はもう食べ終わったよ。」 「そうかぁ?。わたしゃぁまだ食べてないよ。」 すると女性はキッチンへ戻り、汚れた皿を老魔導士に見せた。ソースを掻き取った後がくっきりと残っている。 「誰が食べたんだよ。」「ばあちゃんが食べたの!!。」「知らないよ。」 そのやり取りを聞いて私は族長に話し掛けた。 「長老サマはひょっとして・・・。」 「脳血管性認知症と診断されてもう三年になる。」 私は頭を抱えた。ふとある事を閃き、アルセーヌ・ポーの写真のコピーを 老魔導士に見せた。「見えないのぅ。」 私は一緒について来たコバヤシ氏から懐中電灯を借り、写真を照らした。 「おや、これは・・・私の師匠サマだ。」 その言葉に皆確信した。「やはりそうか。」 私は少し興奮気味に老魔導士に近づき、耳元で話し掛けた。 「お婆さんは魔法が使えるんですよね。」「そうだよ。」 「この箱を開けて欲しいんですけど。」 私は小箱を渡した。老魔導士には小箱を手に取り、暫く眺めている。 「食べていいのかい?。けどこんなのは硬くて食べられないねえ。」 だめだこりゃ・・・。私は頭を抱えた。 「魔法で開けて欲しいんだってさ。」 女性が助け舟を出す。老魔導士は小箱をひっくり返したり撫でたり、時には 噛みついたりしながらしばらく眺めている。「・・・どうだ?。」 族長も少し苛立ちを感じ始めているようだ。と、突然、 「厭だ!!。」と叫び、小箱を投げつけた。 「おなかが空いたよ、早く何か食わせておくれ!!。もう家へ帰るから。」 「ここがばあちゃんの家だよ!!。」 女性が宥めるが老魔導士は言う事を聞いてくれないようだ。私は小箱を拾い 上げ、ため息をついた。 「厭だ厭だ。おしっこが出たいし、家へ帰る!!。」 「ばあちゃんはオムツしてるから後で取り替えるからそのまましていいよ。」 女性が再び宥めるが、ますます言う事を聞かなくなってきたようだ。女性も ため息をつき、こちらを向いた。 「ちょっと機嫌が悪いようだ。落ち着けば忘れると思うから、もう少し してから来て貰えないかねえ。」 仕方なく私達は族長の家へ戻った。  「先程の写真ですが、私にも見せていただけませんか?。」 族長の家で私はポーの写真を見せた。 「何か心当たりがあるのですか?。」 「この人物・・・、昔この集落に流れてきた魔導士とよく似ていると 思いまして。」 私達は顔を見合わせ、頷いた。 「この人は、ヴルドーニュにかつて存在したと言われる魔導士『アルセーヌ・ポー』の写真のコピーです。」 「アルセーヌ・ポー・・・。いや、そんな名前じゃなかったと思うが。」 「恐らく、ここでは偽名を使っていたと思われます。『ジュール・ ギュスターヴ』又は『アレックス・パワード』・・・。」 「アレックス・パワード!!。確かそんな名前だった。そしてその人物は さっきのばあさん・・・。コニー・ローズの師匠だった。」 それを聞いて我々は確信した。 「これでポーの足取りは掴めた。しかし、もうこの世にはいない気が するが・・・。」 「ええ、彼はこの地で亡くなりました。私も三十歳位の時だからかれこれ 四十年ほど前か・・・。集落のはずれに彼の墓があります。何かの 手掛かりになるかもしれませんが、行ってみますか?。」 「ええ。」
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