サント・マルスと大陸の覇王 巻の5

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その38.歴史が変わる瞬間  アレックス・パワードが眠る墓地は、集落からさほど離れていない森の 近くにあった。我々は徒歩で移動しながら族長から話を聞いた。 「この集落では、彼はこの集落で魔導士パワードと名乗っていて、フル ネームを知る物は殆どいませんでした。ただ、私は彼に手紙を出してくれと 頼まれていた事もあり、そこで彼のフルネームを知ったのです。だが、私は 直感でアレックス・パワードという名が本名ではないような気がして いました。」 「・・・手紙の宛先は、何処でしたか?。」 私はアレックス・パワードがアルセーヌ・ポーと同一人物かを確かめる為、 わざと尋ねた。 「たしか・・・南の方・・・テラストレリアの・・・なんと言ったか・・・ 。そうだ、ヴェリントとか言う所だったな。たしか『ザ・サン・イズ・ レッド』と言う曲を歌っていた『ヴェリント・メリンダ』と同じ名前だった から覚えていたが。」 それを聞いて私達は頷いた。 「アレックス・パワードについて、もう少し詳しくお聞かせ願えませんか?。」 「彼がこの地に流れてきたのは世界大戦が終了したと言う噂を聞いて 間もなくだったと思う。元々ここには魔法の伝承が最近まで色濃く残って おり、それを頼りにここへ来たと言っていました。コニー・ローズはこの地で生まれ、一度他の集落へ嫁いだのですが、夫の暴力に耐え切れず、離婚して ここへ戻って来たのです。その頃ここへ流れてきたパワードの身の回りの 世話を頼まれ、側にいる間そのまま弟子になったようなのです。  月日は流れ、文明がこの地に流れてきて、魔法を伝承する者は一気にその 数を減らしました。そればかりではなく、若者は次々に都会を目指し、気付けばここには年寄りしか残らない過疎の地になってゆき、当然、魔法の伝承も 受け継ぐ者がいなくなってしまいました。」  パワードの墓前に辿り着いた族長は墓石の上に落ちている枯葉を丁寧に 払いのけた。とは言え、墓石には名前がない。 「先程も言ったように、彼の名が『アレックス・パワード』ではないと 思っていましたので名を刻むことは出来ませんでした。もし、貴方方が彼の 本当の名を知っているなら、その名を彫ってやりたいのですが。」 私は少し考えた。サトウ氏が 「本来であればDNA鑑定をして、この墓の下にいる人物が誰かはっきり させてからにした方も良いのかとは思いますが・・・。」 「・・・そうですか、だが墓を掘り起こすのは故人が浮かばれない。」 族長は淋しそうに言った。その様子をクリヤガワ氏がカメラで撮っている。 「アルセーヌ・ポーで間違いないでしょう。族長さん、その名で彫って 下さい。」 私は族長を元気付ける為そう言った。すると族長は墓石に向かい両手を 翳した。墓石には沢山の光が集まり文字が刻まれていく。光が消えると そこにはくっきりと「アルセーヌ・ポー」の文字が刻まれている。  「・・・気のせいか!?。」 誰もが感じ取ったようだ。その瞬間急に暖かい空気が流れたような気がした のを。  その夜我々はこの地で一晩過ごす事にした。といっても宿などないので 皆車中泊だ。 眠れなくて車から降り、その辺りを散歩して回った。  遠くから人の声がする。声を頼りに歩いて行くと先程訪れたパワードことポーが眠る墓地の近くへ来ていた。私は声の主が幽霊などではない事を祈り ながらそっと近づいた。  声のする方から明かりが見える。少なくても幽霊などではないようだ。 少し恐怖を感じたが、思い切って更に近づいた。 「・・・に出ちゃだめ!!。こんな夜中に勝手に外を出歩いて怪我でも したらどうするの!?。」 老魔導士コニー・ローズの家にいた世話人の女性の声だ。私は足音を立て ないように更に近づいた。 「あんたがご飯を食べさせてくれないから家へ帰るんだよ。」 「だから・・・。」 そんな会話が聞こえてきた。「あのう・・・。」 場所が場所だけに急に話しかけられた女性は腰を抜かさんばかりに驚いた。 「ひいいいっ・・・。お、お、お、お化け!?。」 「あ、ごめんなさい。話し声が聞こえてきたもので・・・。」 私は懐中電灯の明かりで全身を照らした。「あ、あなたはさっきの・・・。」 女性は私だと分かるとほっとしたようだ。  私は彼女達の側に近づき、挨拶をした。 「コニーさん、こんばんわ。」 「はい、こんばんわ・・・。何だもう夜なのか?。」 老魔導士は昼と夜の区別がつかないらしい。私は苦笑いした。 「コニーさんにお願いです。あなたの魔法でこの小箱を開けて欲しいの だけど。」私は丁寧にお願いした。  少し間があった。また小箱を投げつけられるかと思い、少し緊張した。 「あいよ。」 意外にも老魔導士は小箱を受け取り、手を翳した。小箱が光り始めたので、 私は息を呑んだ。  しかし、小箱はかたかた音がするだけで開く事はなかった。がっかりする 私の目の前に持っていた宝玉が光り、サント・マルスが現れた。 「もう少しかもしれん。」 私は老魔導士に頼んでもう一度小箱に魔法を掛けて貰った。サント・マルスも 精神統一をし、小箱に念を送った。「!!。」 小箱の蓋が少しずつ開いていく。やがて光が収まると、遂に小箱の蓋が 開いた。「なんと・・・。」私とサント・マルスは同時に叫んだ。 「永い間開く事はなかったこの箱が・・・。」 サント・マルスは小箱から宝玉を取り出した。 「全ての宝玉が揃った。これでこの星を救うことが出来る。」 サント・マルスは興奮気味に呟いた。宝玉はサント・マルスの掌の中へ 吸い込まれていった。  車に戻った私はシェラフに包まり、目を閉じた。いつの間にか眠って しまったらしく夢を見ていた。  夢の中クリフ大統領が持っていた宝玉を合わせ、サント・マルスは完全な 姿になった。しかしその瞬間、サント・マルスはいきなり我を忘れて暴れ 始めた。 「一体何が!!。」「分かりません。」 私と大統領は何とかしてサント・マルスを抑えつけようとした。しかし、 完全体になったサント・マルスに人間の力が適うはずもない。 「大統領!!。軍隊の要請を!!。」「判った。」 しかし、その隙もなくサント・マルスが吐き出した灼熱の炎で全て焼け焦げて しまった。 「こんな・・・こんなはずでは・・・。」 私は頭を抱え、その場にしゃがみ込んでしまった。 一体どうしたら、この星を救うどころか、とんでもない事をしでかして しまった。「パパ!!。」 娘が叫んでいる。せめて娘と妻だけでも助けないと・・・。 「パパ!!、パパってば。」 はっとして、私は目が覚めた。あまりにもリアルな夢に心の中に一抹の不安が 過った。 「どうしたのよ。」妻が心配そうに私の顔を覗きこむ。 「・・・すまん、夢を見ていた。」 私が微笑んで見せたので、家族もほっとしたようだ。  「酷いじゃないですか。そんな時は声を掛けてくれても良かったじゃ ないですか!!。」 カメラマンのクリヤガワ氏が私に食ってかかった。どうやら小箱が開く瞬間を カメラに収めたかったらしい。 「まあまあ・・・後は編集でとCGで何とかするさ。とりあえず小箱の画 だけでも撮っておけ。」 サトウ氏がクリヤガワ氏を宥め、何とか事は収まった。  目的を果たした我々は、この集落を後にした。サミュエル皇太子の車で ケント国際空港まで直接送って貰う。移動中の車の中で私はあの夢の中の 出来事が気になって仕方がなかった。何故あんな夢を見たのか。大統領が 持つ宝玉の一つをサント・マルスが吸収したらあんな風に暴走してしまうの だろうか。
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