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その35.金珠星の国
直行便は順調に進んだ。中央大陸を眼下に見下ろしながら、そこに居るで
あろうトッド大統領の無事を祈った。ヒヒポテが復活して以来私は、彼女が
大きな革命か何かを成し遂げるための『同胞』のような気がしてならな
かった。ふと思い立ち、サント・マルスに頭の中で話し掛けた。
「・・・トッド大統領は無事なのか?。」
「恐らく・・・。女神ヒヒポテの息遣いがこの真下から感じる。という事は
ヒヒポテの国の指導者も生きているという事だ。」
それを聞いて安心した。
やがて直行便はケント国際空港へ降り立った。確かベンジャミン王が直接
迎えに来ると言っていたが・・・。
空港のホールにそれらしき人物を探したが見当たらない。その前にそもそも
一国の王が護衛もつけずにその辺りをうろついている事さえ少し信じられない気もしたが。「あのう・・・。」
一人の若者が声を掛けてきた。「おや・・・?。」
「フリードリヒ王・・・じゃなかった。、ロニエール、さんですよね。ご無
沙汰しています。」
この人物は・・・。ヴリティエのピーター・サミュエル皇太子だ。
「確か・・・テレビ局の方もご一緒なんですよね。まず、行きましょう。」
私達一家はサミュエル皇太子について駐車場へ向かった。
「リヨ、ひっさーしぶり!!。元気してたぁ?。」
「あ・・・マリナ。うん、とっても元気だったよ。」
車のドアミラーの上にちょこんと座っていたマリナは娘の姿を見つけると、
娘の目の前まで飛んできた。
「マリナ、またゲームばっかりしていると頭悪くなるぞ。」
「大丈夫だもん。」
サミュエル皇太子は我々の荷物を車に積み込むながら話し掛けた。
「テレビ局の方々はレンタカーを手配していましたので、これで後から付いてきて下さい。」そう言って、サトウ氏に車の鍵を渡した。
私達一家はサミュエル皇太子の愛車コーンウォールに乗り込んだ。空港から
彼の現在の居宅であるケンヴレート城へ向かった。
ヴリティエへ来たのは何年ぶりだろう。丁度目の前に居るサミュエル皇太子の誕生を祝い、父王の名代で来訪した以来だから二十七年振りか。あの時の
赤ん坊がこうやって車を運転し、我々を接待するなんて夢にも思わなかった。
「そういえば、ベンジャミン王は御公務か何かで?。」
妻が皇太子に尋ねた。
「ええ、でもご存じなかったのですか?。ヴィクトリーナの総督が任期中に
急逝されて、その国葬の為王である父が顔を出さねばならんことになり
まして。で、代わりに私が。」
「そうですか。ここ何日かニュースを観ている暇がなかったので・・・。」
「念でも原因は脳卒中だったらしくて、父も惜しい人材を亡くした事に少し
がっかりしてましたけど。」
ヴィクトリーナは一つの国なのだが、この国を統治しているのは代々
ヴリティエ王なのだ。ヴィクトリーナだけでなく、他にも何カ国かヴリティエが統治している国があり、ヴリティエの王はヴリティエだけでなくその
何カ国の王でもある。
やがて車はケンヴレート城の城門をくぐり、敷地内へ入っていった。
「こちらです。」
私達一家、それにテレビのスタッフ達が案内されて城内へ足を踏み入れた。
「この城内には執務を取る場所が無いので、こちら、食堂の方へご案内
します。」
執務室がない、という事はこの城は純粋に王族の居宅な訳だ。私はそう考え
ながら横目で場内を見回した。
皇太子は城の奥にある大きなドアの付いた部屋に我々を案内した。席に
着くといきなり、
「早速ですが・・・。話は概ね父から教わっているので・・・。確か、
『アレックス・パワード』という人物の事でしたよね。教わった住所にそう
いう人物がいた事が判ったのです。」「ほ、本当ですか!!。」
私は思わず席から立ち上がった。
「ええ、ちょっとお待ち下さい。」
皇太子は侍従にノートパソコンを持ってこさせ、食堂のテーブルの上へ置いて
起動させた。最新の機種なのだろうか、たち上がりが早い。
「・・・えっと、マーシー州でいいんだよね。」
「いや、ハンプスター州じゃなかったか?。」「えーっ、そおだっけ?。」
ここでもマリナがパソコンを操作する。一家に一匹(?)は欲しい妖精だ。
「・・・ここのね、・・・ダークフォレストっていう集落に外界から
離れてひっそりと暮らしているらしいんだけど・・・。」
マリナは地図を拡大する。今度は皇太子が続ける。
「人口およそ数十人の、ヘタをすれば見逃してしまうような小さな集落で、
私達もこれを調べて初めて知った集落でしてね。」
「集落の住人は、魔法が使えるのでしょうか?。」
「可能性としては高いと思います。恐らく文明から隔離した生活を営んで
いる、つまり、文明の利器に頼らなくても生きていけるという事。しかし、
今時、文明がないままの生活はかなり難しい。となれば魔法や魔術などに
頼りより他にないのでは、と。」
「なるほど、行ってみる価値はありそうですね。」
サトウ氏が呟いた。その時ドアをノックする者がいる。「私です。」
この世の者とは思えぬ女性の声が響いた。「あ・・・。」
私達が驚くのも無理はなかった。「・・・女神ヴァイナス!?。」
「・・・皇太子にお話が・・・。」「どうかしたのか?。」
「ただ今よりヴルドーニュのヴァロア王が召喚獣ヴルドーと共にこの地に
向かっています。何でも、サント・マルスとその国の王にお伝えしたい事が
あると。」「・・・私に?。・・・」
ヴァイナスは私の方を見た。私はヴァイナスに近づきながらある事に
気づいた。
「異国の者である私と対等に話が出来ると言う事は、今の貴女は完全体なの
ですね。」
「はい。但し人の姿を借りていますが。」
「で、一体私に何を伝えたいと?。」
「それは分かりません。多分、この地で直接お話ししたいのだと。」
「そうですか。」「そこで皇太子にもお願いがあります。」「なんだ?。」
「ケント国際空港にある王家専用の滑走路に、ヴルドーが着陸する許可を
出して下さい。」「分かった。」
皇太子は端末携帯を取り出した。「あ、いや、・・・待って下さい。」
私は思わず叫んだ。「何か問題でも?。」
「いいえ、ここではなく、アレックス・パワードが居たと思われる集落
・・・ええと。」「ダークフォレスト。ですか?。」
「ええ、そこで落ち合うように取り次いでもらえませんか?。」
「そうですね。その方がいいか・・・。うーん、マリナ、頼むぞ!!。」
「何を?。」「・・・そこに一番近い空港だ。」「あ・・・そっか。」
マリナは開いたままの地図から空港を検索した。
「ここね。オーストンキン州のテューダー・エアポート。」「よしっ。」
皇太子はポケットからUSBメモリを取り出し、地図をダウンロードした。
そしてメモリを取り出し、サトウ氏に渡した。
「これをレンタカーのナビに読み込ませてください。」「分かりました。」
それから皇太子は携帯端末で改めてテューダー・エアポートに着陸許可を
要請する連絡をした。そして急いで荷物を纏め、私達と共々出発した。
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