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――なんとかしないと……奥さんと子供がいるオジさんが危ない道に走っちまう前に全力で阻止しないと……!
そう、強引だし変態だが、美形なのだ。ちょっとないくらいに美形なのだ。中学生の可憐な男の子に迫られまくって、オジさんがやばい不倫に手を出して戻れなくなってしまう可能性は残念ながら否定できないのである。ていうか、前の用務員さんがやめちゃったのも、こいつのせいだという噂ががっつりあるくらいなのだ。
あたしはさっき迫られていたエースストライカー君と、その傍に控えていたキャプテン君にアイコンタクトを送った。他のメンバーも、心は一つだろう。なんとしても、このアホを止めなければいけない、である。できれば、迅速に、素早く――だ。
「聖也先輩!」
その時。部室のドアが、勢い良く開かれた。見ればそこに立っていたのは、二年生であたしのクラスメートである――月子ちゃんである。ウェーブのかかった長い髪を靡かせ、キラキラした目でこちらを見ている。
クラスのアイドル的美少女で、美術部のホープと名高い彼女。しかしあたしは見逃さなかった。彼女が登場した瞬間、さっきまで平然と変態トークをブチかましていた男がサッと青ざめたのを。
「ちょっと、部活前に話が聞きたいって言ったじゃないですか!どうして逃げるんですか!」
「つ、つ、月子、ちゃん?えっとその……!」
「お願いしましたよね、次の……夏のお祭りの同人誌!モデルになってくれるって!」
あの聖也をぐいぐいロッカーの前まで追い詰める美少女。実にシュールな図だ――ってそうじゃなくて!
「先輩、私の理想通りの見た目なんです!長身サッカー部のミッドフィールダーの美少年……今回の総受け本の主人公に、先輩はぴったりなんですよ!!」
――月子ちゃん腐ってた!めっちゃがっつりと!!
恐らく、彼女の正体を知らなかった二年生の部員達はみんな倒れそうになっていることだろう。彼女はクラス外の男子にも有名なマドンナであったのだから。
「それは嫌だ!嫌です!俺受け本とか絶対むり、むりい!」
そして聖也は。
「やるなら総攻め本にして、お願いいいいいいいいいいいい!」
逃げた。部室の外へ、それはもうギャグ漫画よろしく砂煙を上げながら。サッカー部員の脚力を無駄に生かして。
「逃しませんよ先輩!なんとしてもモデルやってもらいますからねええええええ!」
そして、その彼に負けないスピードで追いかけていく美少女なお腐れ様。一連の流れを、完全に傍観者と化したあたし達はポカーンとして見送るしかない。
「……もしかして」
キャプテン君が呟いた。
「聖也の弱点、露呈したんじゃないか?……あんま使いたくないテだけど。精神安定上の問題で」
「あー……うん」
変態・桜美聖也は、自分受けのBL本が大の苦手。ようやく発覚した弱点だが、あたし達にとってはため息を吐くしかない。
こんな弱点、一体どうやって活用すればいいのだ。
――まあ……出来上がった本、月子ちゃんに一冊貰っておくかね……。
なおそれを読んだあたしが、ちょっとそっちの道に興味を持ってしまうようになるのは――ここだけの話である。
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