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聖也さんの弱点が露呈した話
「その日、俺は出会ったのだ……最高のパートナーに!」
あたしの目の前で、唐突に語りだした変態。それを見て、サッカー部の部室にいた全員が“げっ”と青ざめたのは言うまでもない。
此処はとある中学校のサッカー部部室。あたしはそのサッカー部のマネージャー。そして、ベンチに足乗っけて熱く語ってるアホの名前は桜美聖也。中学三年生のミッドフィールダー。……小説の都合上正しいルビを振ったが、桜美聖也と書いて“ヘンタイ”と呼んでも良し。ようはそういう男である。変態の中の変態だ。主に、その恋愛対象的な方向で。
「お前が惚れやすいし、その守備範囲が崩壊してるってことは知ってるけど」
正直、放置したい。しかし、いつの間にかこのアホの面倒を見るのは元ヤンのあたしの仕事ということになってしまっている。気弱で生真面目なキャプテンを泣かせるわけにもいかず、仕方なしに話しかけてやる。
「今度は誰に惚れたんだよ。つか、ベンチに足乗っけるな。潰すぞ」
「ナニを潰す気かな!?いちいちみっちゃんって俺に対する愛が重すぎるよね!?」
「愛なんてもん1ミリもないから安心しろ!」
「ふげぶっ!」
これもお約束の流れ。余計なツッコミをしたそいつに、見事なボディーブローを決めてやるあたしである。綺麗に吹っ飛んでロッカーに激突する変態。周囲に部員たちという名の巻き込まれた被害者たちからは、自然と拍手が巻き起こった。
変態が変態たるゆえん。それは、こいつの恋愛対象が文字通り老若男女問わずということ。バイセクシャルだなんて呼び方をしたら、世間の真っ当なバイの方々に失礼である。こいつと来たら、下は零歳児、上は百歳越えのジジババまでイケると豪語しているのだ。いや、それを思ったところではっきり公言できてしまうのも凄いのだが。
ちなみに此処はサッカー部、先生に選手にマネージャーに、非常に個性的な面々が揃っているが。結構ダンディなオジ様である監督も、可愛いマネジの女の子達も、地味系メガネな部員も、ムキムキな三年生のフォワード君も、全員こいつの被害に遭ったことがあるという恐ろしい状況だ。ナンパからセクハラまでのフルコースである。どうして部を追い出されないのかは、この学校の七不思議の一つにしてもいいくらいの謎だ。
「酷い、流れるように暴力が推奨されるなんて……俺そんな酷いことしてないのに!」
しくしくわざとらしく泣き崩れる聖也。
「ちょっとみんなのお尻触って“安産型だな!”とか“触り心地が超好み!”とか宣言して回っただけじゃん!そこまで恨まなくても!」
「そう思ってるのはお前だけだっつの!あとボコり推奨されてんのもお前だけだから安心しろ!」
「安心できる要素全くない!でも最近ちょっと喜んでる俺がいるのも否定できない!!」
どうしよう、段々こいつを制裁する手段もなくなってきているような嫌な予感がしているのだが。あたしは内心で頭を抱えた。ぶっ飛ばされすぎて、どうやらここのところそれが快感になりつつあるらしい。
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