聖也さんの弱点が露呈した話

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「何でもかんでもセクハラって言い方でシャットアウトするのは良くないよ、うん!本当に良くない時代になったもんだ!」  ベンチにどっかり座って開き直る、変態。 「尾木さんってのはだね、新しい用務員さんだよ!前の桜田さんもいいかんじのオジイちゃんだったから、バイバイするの残念だったんだけどさ。尾木さんもなかなかいいかんじだった!特にあのビール腹がたまらない!」 「そこが萌えポイントになるお前おかしくね!?ていうかあの用務員のオジさんかよ、確かにどっかで紹介されてた気がしたけど、よく名前覚えてたな!?接点もねーのに!」 「そりゃそうだよ、就任初日からめっちゃアタックしてるから!奥さんと子供いるみたいだけど関係ない!」 「関係あるわ!アウトだわ!!」  思い出した、確かに、用務員さんが変わったという話はどこかで聞いた、と。でもって、朝礼か始業式か何かで一度だけ紹介されたことがあった気がする。事務員さんも用務員さんも、この学校のスタッフの一員だ。そういう方々に感謝を忘れないように、というのが先生方の方針である。大抵人員交代があると、生徒に関わる可能性が高い者から優先的にどこかで紹介されることになるのだ。まあ、あたしは名前を覚えてなかったわけだけども。 ――……ほんっと、こいつ見境ってもんがないな。  ただ、姿はぼんやり思い出した。確かに、腹がめっちゃ出た中年のオッサンだったと思う。それも、日本人には珍しいくらい、もっさり髭だったはずだ。こう言ってはなんだが、女子中学生や女子高生がちょっと近寄りたくないと思うタイプの男性があんなかんじなのではなかろうか。  それを、ビール腹がいい!と言ってくるとは。しかもその言い方だと、お酒をたくさん飲むという話を本人から直接聞き出している可能性が高い。しかも妻子もち情報も知っていた。――残念ながら既に被害は発生していたらしい。 「お前らはわかってないな、太ったオジさんの魅力というものを!」  ドン引きしまくっているあたしと部員達をスルーして、顔だけは綺麗なそいつはうんうんと残念そうに頷いている。 「中毒になりそうな加齢臭を味わえるのも、あの男らしい髭も、抱き心地ありそうなお肉も最高じゃねーか!ああいう人を押し倒してみたいって思うのは男の本懐じゃね!?」 「んなわけあるか!全国の男子中学生が誤解されかねないようなこと言うのやめろ!ていうか抱き心地とか押し倒すとかさらっと言うなよ通報するぞ!?」 「通報!?え、そのレベル!?」 「そのレベル!!」  本当にこいつはどうしようもない。何がやばいって、こいつがただのバイセクシャルじゃなくて、完全な攻め系男子ということだ。つまり、BLで言うなら総攻め男という奴である。零歳児から(以下略)まで、全部こいつは攻める気満々なのだ。俺がネコとかありえねえ!全員俺の嫁!というのがこいつの口癖である。  ああまさか、男子中学生に襲われて貞操を奪われかねないオジさんの心配をすることになるなんて、一体どうして予想できただろうか。あたしは遠い目になる。こいつが二年生でこの学校に転入してきてサッカー部員になった時は、美形だしそれなりに身体能力も高いし、いい新入部員が入ってきてくれたもんだとちょっと期待したというのに。人間は見た目によらない。人生の痛いほどの教訓だ。
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