いつかは忘れる恋だった。

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 高校の美術の先生になって3年。  生徒たちにもまれながら、わたしはどうにか先生としてやってきた。  10年前は生徒側だったなんて、今ではなんだか信じられない。  それだけ年を取ったってことなんだろうけれど、大人になったという気はしない。  制服を着ていたあの頃は、二十歳を過ぎた人たちがすっかり大人に見えていたのに、いざ自分がなってみれば全然だ。  もう子どもではないのはたしかだけれど、胸を張って大人だと言えない自分がいる。  そのことを見透かされているのか、わたしはこの3年間、よく生徒たちにからかわれた。  よく言えば親しみを持って接してくれているのだろうけれど、少し度を超した生徒もいて対応に困った。  特に、藤島優斗くん。  この3年間、きみはずっとわたしをからかい続けたね。  そんなふうに大人をからかうものじゃありません、もっと年上を敬いなさいって、何度思ったことか。  でも、その前に自分がちゃんとした大人にならなくちゃと思って、言わなかった。  わたしはこの3年間、「大人の対応」を心がけた。  きみがあんなことを言ってきても、わたしは動揺しなかった。
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