いつかは忘れる恋だった。

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 おれは高校を卒業した。  あっという間の3年間だった。  いまは春休みで、もうじき大学生としての生活がスタートする。  おれが進学を決めたのは都心の大学。  これからは故郷を離れての一人暮らしだ。  もろもろの準備はすでに終わっていて、ついに明日が実家を出る日だった。  何もないこの田舎とも、とうとうおさらばだ。  本当に何もなかった。  何もない3年間だった。  それでよかったはずだった。  もう気持ちの整理はついたはずだった。  ひと月前から先生の左手の薬指には、指輪がはめられている。  それを覆す力など、最初からおれには、なかった。  それなのにおれは、気がつくと家を飛び出していた。
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