いつかは忘れる恋だった。

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 学生は春休み、しかも今日は世間的には休日。  だけどわたしには仕事があって、学校に行っていた。  その仕事も終わって、いまは家に帰る途中。  わたしはじきに入籍して、彼と一緒に住むようになる。  そうすればこの道も通らなくなるだろう。  そう思うと少し、寂しくなった。  平凡な田舎道で、特別に何かあるわけじゃないのにね。  と、そのときだった。  わたしの行く先、川の上にかかった橋の向こうに、見知った人が立っていることにわたしは気がついた。  藤島くんだった。  卒業後は都心の大学に行くと言っていたけれど、まだ引っ越していなかったんだ。  そんなことを思いながら歩いていくと、藤島くんもわたしに気がつき、近づいてきた。  まるで、わたしを待っていたみたいに。  橋の真ん中で、わたしたちは向かい合った。  日が沈み、あたりは暗くなりかけていた。 「どうしたの藤島くん、こんなところで」  わたしは訊ねた。  藤島くんの様子がいつもと違うことは、すぐにわかった。  その表情は真剣で、怖いほどだ。  だけどわたしは、いつも通りに微笑んでみせた。
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