いつかは忘れる恋だった。

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 先生への片思いはあっけなく終わった。  あれから数ヶ月。  田舎から都心へ、実家から一人暮らしへ、高校生から大学生へ。  生活が一変したことで落ち着かない毎日を過ごしているが、おれは元気にやっている。  あの3年間はなんだったんだろうか、なんてときどき考える。  最後に先生を抱きしめてしまったことは、いまにしてみればすごく恥ずかしい。  これから結婚するって人に何してんだって話しだ。  結局おれは、どうするのが正解だったのだろうか。  そもそも恋人がいる人を好きになってはいけない。  いや、好きになるのはその人の自由だ。  気持ちを伝えるくらいはいいんじゃないの?  迷惑だからやめろ。  でもそのおかげで、本当に好きな人同士が結ばれるかもしれないじゃん。 「あーあ、いやだいやだ」  あの経験のおかげで今の自分がある、なんて簡単には思えない。  別に、次の恋愛ができないほど引きずっているわけではない。  けれど、前に進めるほどにすがすがしい気持ちでもない。  人生は、スッキリとは終わってくれないようだった。  そして時間は、おれのことなど待ってはくれない。  もたもたしていると、次の講義に間に合わなくなる。  おれはキャンパスを急ぎ足で歩き、そして教室の扉を開けた。
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