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「でも、決定的に違うところがあるね」
後から来た子犬を見据えて、その宣言を突き付ける。
「かわいそうに……お前は死んじゃったんだね
言われて子犬はそのガラス玉のように澄んだブラウンの目で朔良を見上げた。
たったそれだけの反応では、なんの感情も読み取ることはできない。
「心配しなくても、お前の兄弟の住む家はちゃんと見つけるから、安心して」
それでも朔良はそう言った。
感情が読めなくても、死んでしまっても生き残った兄弟にくっ付いて来る理由をそんな風に読み取ったからだ。
「大丈夫。遼も手伝ってくれるって」
言外に、まさかこんな健気な兄弟を追い出したりしないよな? と滲ませて朔良は遼人を見上げた。
「朔……お前は……」
言いたいことがありすぎて、どこから言うべきかと遼人は逡巡したが、結局答えは見つけられず深く大きなため息を、感情のままに吐き出した。
二匹目の子犬の存在が、どうにも『桜木一』を彷彿させて落ち着かない。
あの思いを知っていて、これ以上強く拒絶することはできない。
今度は諦めのため息を落とす。
何だかんだと、いつもこうやって最後は押し切られている気がする。
「ありがと、遼」
言葉にしなくても朔良はちゃんと感じ取って、短く礼を述べた。その足元で、元気に跳ね回っていた子犬がくしゃみをした。上着から出されて冷えたのかもしれない。
朔良は片手で子犬をすくい上げると、大事そうに胸に抱いた。
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