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 ここ五年程の付き合いにおいて、大抵の場合、厄介事を持ち込んでくるのは朔良の方で、自分はいつも付き合わされる立場にいるように思う。  そのことになんの不満もないが、今回の件は少し事情が違う。  里親探しも子犬の世話も乗り掛かった舟というヤツだ。それについては、もう割り切った。問題は後から来て、招き入れてしまったもう一匹の方だ。  遼人も朔良も普通の人には見えないものを見ることや、場合によっては声を聞くことはできるが、それ以上の術は持っていない。  遼人の方は自衛のために『結界』を張ることができるが、早い話、見えても聞こえても、除霊的なことはなにを一つできないのだ。  現状、自宅という結界内に招き入れてしまった子犬の霊一つ消し去ることもできない。  もっとも侵入を試みた霊が不浄なものであれば、内の者が例え招き入れたとしても、結界の浄化作用で消え去るのだろうが、どうも今回の子犬には邪念はないらしい。  どうしたものかと遼人は一人考えを巡らせた。 「よし、まずは風呂だな」  遼人の懸念などまったく感じ取る風もなく、朔良は子犬を抱いたまま風呂場に向って歩き出した。その後を問題のもう一匹が音もたてずついて行く。  そんな一人と二匹を見送り、遼人は考えることを放棄した。まずは生きている子犬のために風呂上がりと寝床の準備が必要だろう。  どうせそのうち、風呂場から声が掛かるはずだと思いながら。
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