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五年前、突然天涯孤独という境遇に陥った桜木朔良を引き取ったのは、遠い親戚に当たる天羽家だった。
どういう経緯で、そういうことになったのかを、朔良は詳しく覚えていない。
当時の朔良はただただ混乱の中にいた。
自分の知らないところで話が決まり、施設で暮らしていくはずだった身は、突然に大家族の一員になった。――それが朔良の感想。
一方の遼人の記憶は、朔良のそれとは大きく異なる。
朔良が家族の一員になったのは、朔良の祖父、桜木一に頼み込まれたからだ。
それもなかなかインパクトの強い方法で。
桜木一が天羽の家に現れたのは、彼が亡くなったあとだった。
つまり、俗に言う……幽霊となって一は天羽家に現れ、その姿を見ることの出来る、父と長女の弥吏、それと次男の自分に朔良のことを頼んだのだ。
『一人残してはいけない。だからといって連れてもいけない。今まで人一倍過酷な思いをしてきた朔良を、赤の他人の中に放り出すようなことはしたくない。――お金のことなら、朔良の名義で少しばかりは残してある』
そう言って、桜木一は床に頭を擦りつけた。
初めは誰もがただただ驚いた。
それは一が幽霊だったからではない。それ以前に天羽家と桜木家は親戚筋とはいえ、そんなに近しくはなく、冠婚葬祭の折に顔を合わせたことがあるかどうか……その程度の付き合いだ。
それなのになぜ一は現れたのか。
頼って来たのか。
桜木一の息子の行いは親戚の内でも話題に上ったことがあるが、そんなものは所詮対岸の火事だったはずだ。まさかその息子を引き取ることになるなどと考えたこともなかった。
当然、父は反対した。
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