160人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし、桜木一は諦めなかった。
朝に夜にと姿を現し『助けてほしい』『力を貸してほしい』と懇願した。
それでも父は首を縦に振らなかったが、状況が一変したのは、一の姿を見ることはできずとも話のすべてを弥吏や遼人の通訳を介し熟知していた、母の一言だった。
「今更子どもが一人増えても、大差ないでしょ?」
母は笑ってそう言った。
大差ないわけがない。
当時小学六年だった遼人にもわかることだが、母の言葉に父は折れた。もしかしたら、父も落としどころを探していたのかもしれない。身内のゴタゴタに母を巻き込む口実を。
実質的に一番負担がかかるであろう母の了承で、ことは一気に進み、朔良は晴れて天羽の家に迎えられた。
朔良に会う日のことを、ずっと楽しみにしていたことを覚えている。
自分と同じ年だというのにまったく違う環境に身を置き、死してもなお祖父に愛されるその少年に、純粋に興味があった。
もっとも朔良にはなんの感慨もなかったというのだから、少なからずのショックは受けたが。
そんな朔良とはこの春高校に進学したのを機に、天羽家から徒歩十分のマンションを借りて住んでいる。
朔良が高校を卒業したら家を出て自立するための準備期間という名目だった。
最初のコメントを投稿しよう!