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「遼、遼聞いて!」
「よし、じゃあ一人で帰ってきたらいくらでも聞いてやるから、行ってこい」
「やだ今、今聞いてほしいっ! 一生のお願い!」
「それが一生のお願いで本当にいいのか? 後悔しないか?」
一体何度目の一生のお願いだろうかと思わない訳ではない。しかしあえてそうは言わず、遼人は振り返った朔良に対峙した。
「あー、それはちょっと自信ないけど……」
「だったら諦めろ」
立ち尽くす朔良の横をすり抜けてノブに手を掛けると、朔良は最後の抵抗とばかりにファスナーを下ろそうとする。
「遼、もう一回ちょっと見て? こいつすげえかわいい目ぇしてんの」
「見ない。絶対に見ない!」
「いいじゃん、ちょっとだけ!」
目が合えばこれ以上強く言う気概が折れる。その予感がある。だから遼人は頑なに拒絶し、玄関の扉を押し開けた。
押し開けて、そのまま絶句した。
「朔――」
「お願いだって――」
力業で押し出されると覚悟していた朔良も、遼人と同時に口を閉じた。
「……どういうことだ?」
扉の外には真っ白い毛並みの子犬が一匹、ちょこんとお座りをして、こちらを見上げていたのだ。
「説明、しろ」
説明しろと言われても、朔良に心当たりはない。
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