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 天羽遼人(あもう はると)桜木朔良(さくらぎさくら)、二人が通う高校は部活動重視の学校ではない。  つまり授業さえ終われば、朝、月白と約束した通り、すぐに帰路につけるはずだった。  しかし待ち合わせ場所の中庭にまだ遼人の姿はなく、朔良は近くに立つ時計を見上げた。ここについてから三十分は経つ。  手の中のスマホにもなんの連絡もない。  なにか大変なことが起きたとは思わないが、何かしらのメッセージくらいはあってもいいと思うのだ。ついつい無意識に小さなため息が落ちた。 「あれ? 桜木君? 帰ったんじゃなかったっけ?」  突然耳慣れない声が聞こえ、朔良は顔を上げた。 「あ、え?」  声の主は確かクラスメイトの矢部奏太(やべ そうた)……だっただろうか。そうは思うものの自信がなく、朔良は返事に困ってしまった。 「いや、ホームルーム終わったら速攻出て行ったから目についたんだよ」 「あ、うん。そうだったんだけど……」 「なに? 彼女待ち? それともすっぽかされたカンジ?」  自転車通学であるらしい矢部は、自転車に横に立ち声を潜めて聞いてきた。 「んー、そういうのではない、かな」  約束の時間を過ぎて待ちぼうけを食らっているのは事実だが、遼人は彼女ではないし、すっぽかされてもいないはずだ。 「ホントに?」 「そう、本当に」 「ふーん」  意味ありげに笑う矢部に朔良は「それより」と話題を変えた。 「それよりどこかで一組の天羽遼人、見なかった?」 「天羽?」  考え込むように矢部は一度空を見上げたが、すぐに満面の笑みで朔良に振り向いた。 「ごめん。そもそもオレ、そいつのこと知らないや」 「入学式のとき代表で挨拶した奴」 「知らねぇー」 「あぁそう」  呆気なく終了した会話に見切りを付けて、朔良は校舎の出入り口に視線を転じた。一刻も早くそこから遼人が出てこないかと睨み付ける。
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