161人が本棚に入れています
本棚に追加
/149ページ
3
天羽遼人と桜木朔良、二人が通う高校は部活動重視の学校ではない。
つまり授業さえ終われば、朝、月白と約束した通り、すぐに帰路につけるはずだった。
しかし待ち合わせ場所の中庭にまだ遼人の姿はなく、朔良は近くに立つ時計を見上げた。ここについてから三十分は経つ。
手の中のスマホにもなんの連絡もない。
なにか大変なことが起きたとは思わないが、何かしらのメッセージくらいはあってもいいと思うのだ。ついつい無意識に小さなため息が落ちた。
「あれ? 桜木君? 帰ったんじゃなかったっけ?」
突然耳慣れない声が聞こえ、朔良は顔を上げた。
「あ、え?」
声の主は確かクラスメイトの矢部奏太……だっただろうか。そうは思うものの自信がなく、朔良は返事に困ってしまった。
「いや、ホームルーム終わったら速攻出て行ったから目についたんだよ」
「あ、うん。そうだったんだけど……」
「なに? 彼女待ち? それともすっぽかされたカンジ?」
自転車通学であるらしい矢部は、自転車に横に立ち声を潜めて聞いてきた。
「んー、そういうのではない、かな」
約束の時間を過ぎて待ちぼうけを食らっているのは事実だが、遼人は彼女ではないし、すっぽかされてもいないはずだ。
「ホントに?」
「そう、本当に」
「ふーん」
意味ありげに笑う矢部に朔良は「それより」と話題を変えた。
「それよりどこかで一組の天羽遼人、見なかった?」
「天羽?」
考え込むように矢部は一度空を見上げたが、すぐに満面の笑みで朔良に振り向いた。
「ごめん。そもそもオレ、そいつのこと知らないや」
「入学式のとき代表で挨拶した奴」
「知らねぇー」
「あぁそう」
呆気なく終了した会話に見切りを付けて、朔良は校舎の出入り口に視線を転じた。一刻も早くそこから遼人が出てこないかと睨み付ける。
最初のコメントを投稿しよう!