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この辺りで美しいものは何ですか?
旅人は夜を歩く。北のひとつ星を目印に夜を歩く。
旅人は夜にだけ歩く。次の目的地まで夜にだけ歩く。
旅人はある村に着いた。村に着くとすぐに、そばを通りかかった女性に声をかけた。
「この村で一番美しいものは何ですか?」
「今の季節でしたら村はずれの谷がいいですよ。私たちの村の唯一の自慢です。」
女性は少し悩んだあと、笑顔でそう答えた。
村はずれの谷は、一面様々な色の花が咲き誇っていた。天国というものがあるのならば、きっとこんな場所なのだろう。そう思えるような美しい景色だった。
旅人はその景色をしばらく眺めたあと、地面に腰おろしスケッチブックを取りだした。そして、クレヨンで下手くそなスケッチを夕日が沈むまで描きつづけた。夕日が沈むのを見届けスケッチが完成すると、旅人は満足げに頷き立ち上がった。
旅人は夜を歩く。北のひとつ星を目印に夜を歩く。
旅人は夜にだけ歩く。次の目的地まで夜にだけ歩く。
旅人はある町に着いた。町に着くとすぐに、そばを通りかかった子供に声をかけた。
「この町で一番美しいものは何ですか?」
「うーんとね、あ、あれがすごくきれいだよ!」
子供は元気よくそう言うと、旅人の手を引いて走り出した。
子供が連れて行った先は、一件の雑貨屋だった。自慢げな顔をする子供を見ながら、本当にここに美しいものがあるのか、そう疑いながら雑貨屋の中に入った。店内には様々な日用品が並んでおり、パッと見た限りは美しいものがない。
「こっち、こっち。」
子供は嬉しそうに旅人の手を引く。その先には見事な飴細工があった。糸のように細い金色の飴でブローチが作られていた。まるで金細工のようなその飴細工は食べるのが勿体ないほど美しかった。
「確かに、これはすごい。」
旅人は満足げに、その飴細工を買った。
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