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なぜ波に乗るのかと訊かれることがある。
海の側に住んでいたからとか、幼なじみの家がサーフショップをしていて、たまたまサーフィンをする環境が身近にあったからとか、あえて理由をつけるならば、さまざまな答えが考えられるが、要は単純なことで波乗りというスポーツが楽しく、宇野篤郎の趣味にあったからだ。
波に合わせ、パドリングを開始する。このとき、サーフボードの後ろ、テールと呼ばれる部分が持ち上がらないよう、太股と膝を使ってボードを深く沈める気持ちでしっかり押さえつける。そして、トップスピードに乗った一瞬のタイミングを狙って波に乗る。ふわりと身体が浮き上がり、波と一体になったときの爽快感はちょっと言葉にし難いものがある。好きなものに理由なんてない。好きなら好きでいいじゃないかと篤郎は思う。
でも、その対象が人だったら……? 自分があの自堕落でろくでもない男をなぜ好きなのかと訊ねられたなら、篤郎はとたんに言葉につまってしまう。
他人の心を掴むような絵を、まるで息をするように自然に描くことができ、そのくせ絵以外のことは何もできない、むしろ何もする気がないろくでなし。創作に夢中になっているときは、食べることや寝ることすら煩わしくなるらしく、これまで倒れたことも一度や二度じゃない。人好きのする穏やかな笑みを浮かべているくせに、基本他人には興味がなく、ときに残酷なほど冷酷に振る舞える三十過ぎの隣人の中年男に、篤郎はもう何年も初恋をこじらせているのだった。
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