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 ザン・・・・・・ッ。波の音が聞こえる。  早朝、波乗りに来たときには水平線にあった太陽が、いまではだいぶ高い位置にまで上がってきている。 「夏海(なつみ)ー。俺、そろそろ帰るな」 「うん。あっちゃん、またねー」  仲間と一緒にいた幼なじみの青年に声をかけた篤郎は、友人の家が経営するサーフショップにボードを預けると、クロスバイクに跨がった。  ピーヒョロロロ・・・・・・。  遙か上空を鳶が旋回する。海岸沿いの道を、篤郎は慣れたようすでクロスバイクを走らせる。  ここ、鎌倉は東京から電車で一時間ほどの距離だ。土日は多くの観光客で駅前を歩くのも困難なほどの人気スポットだ。篤郎の家はそんな鎌倉駅から歩いて三十分ほどの距離に、祖父母の代から家を構えている。周囲は緑に囲まれ、住むには多少不便なところもあるが、サーフィンが趣味の篤郎は、自転車で海へのアクセスも楽なこの住環境を気に入っていた。そういう今朝も、高校が夏休み中ということもあって、朝一番から波乗りを楽しんできたところだった。  家の近くまできて、私道を塞ぐように隣の家の前に止まっている花園画廊の高級バンが目に入った。篤郎は舌打ちした。 「こんなでかい車、狭い住宅地の前に止めるなよな」  それが単なる八つ当たり以外の何物でもないことはわかるが、車の所有者が苦手な相手だから、その言葉は自然と苦いものになる。  隣の家の住人、日高源(ひだかはじめ)は画家だ。美術に造詣がなくとも、恐らくその作品を一度は目にしたことがあるんじゃないかというくらいには、名前が知られている。
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