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「これまで僕はいろいろなひとの作品を見てきました。それこそ玉石混合さまざまなものをね。先生の描く絵は本物です。同時に、先生ほど絵を描くことを切実に欲しているひとはいません。あのひとの絵は、誰よりも愛情を欲していることの裏返しなのですよ。そのくせ手を伸ばすことを躊躇うように、頑ななまでに他者を拒絶している。だからこそ悲しくて、愛おしくて、観る人の心を打つ。正直、誰に何を言われようと、例え人間性にどれほど問題があろうと、そんなものは芸術の前では一切関係ないんですよ。――でも、あるときから先生の絵が変わった。それまで闇の中から一方的に光に焦がれるように見つめていたものが、まるでその光に導かれるように、あたたかいものが先生の絵に表れるようになった。そう、きみと出会って少しずつね」 「えっ」  突然名指しされて、篤郎はぎょっとした。きみもきょうの絵を見たのでしょう、と思わせぶりに告げられて、篤郎は沈黙する。  源が俺と出会って変わった……?  思い出すのは、初めて会ったころの源だった。誰も信じることができないという昏い目をして、糸が切れた凧のように、ある日ふつりと姿を消してしまってもおかしくなかった。子どもなんか嫌いだと篤郎と関わること自体を避けていた源が、少しずつ変わったと感じたのはいつからだった……? 「誰よりも先生を光の差すほうへ引っ張り出したきみが、自分は関係ないと、そんな力はないと言うのですか?」 「で、でも……」  まさかという思いと、心のどこかで日下の言葉を信じたい思いが篤郎の中でせめぎ合う。それに・・・・・・。
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