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 悔しい、という気持ちが篤郎の胸を締め付ける。きょうここまできたのは篤郎にとって決して容易なことではなかった。それでも何か助けになれることがあればと、篤郎なりに決意を込めてきたのだ。  結局自分の独りよがりだった。空しさと寂しさがごちゃ混ぜになって篤郎の胸を締め付ける。後に残ったのは諦念だった。 「……わかった。もういい」 「あつ?」  そっけなく言い放ち、源の横をすり抜けて玄関に向かう。 「ちょっと待って。あつ?」  慌てたように源がついてくるが、篤郎は一刻も早くこの場から逃げ出したかった。玄関で靴を履いて帰ろうとする篤郎の腕を、源が掴む。 「もういいってどういうことだ? あつ……?」  篤郎の顔を見て、源は驚いたようにはっと息を飲んだ。 「なんでそんな顔してる……」  泣きそうな顔など見られたくないのに、源は顔を背けた篤郎の顎に手を当て、わざわざ自分のほうに向けようとする。 「くっそ……見るな!」  瞼にじわりと滲んで、篤郎はぎゅっと目をつむった。目を閉じていても、瞼の裏側に源の視線を感じる。 「そんなの無理に決まってるだろ。何があった、あつ。篤郎?」 「……っ」  あまりにちぐはぐな源とのやり取りに、やり場のない思いが瞬間、お前が言うなという激しい怒りに変わった。 「何があったかって、そんなん源のせいに決まってんだろ!」  源の腹を拳で殴る。そんなに強く殴った覚えはないのに、源はよろめくと篤郎に殴られたあたりを片手で押さえた。 「……あつがそんな顔してるのは俺のせいなのか?」
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