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しばらくしてから、朝比奈が静かに唇を離した。つう、と二人の口の間に銀の糸が伸びて、消える。
「っ‥」
陰山は自分の口を抑え、肩で息をしながら、朝比奈を睨み付けた。
「な、‥にすんだよ‥っ」
はあ、はあ、という短く息を吐きながら、なんとか言葉を絞り出した。
息が苦しい。
これは幽霊のせいか?
それとも、この変態に無理やりキスされたせい?
分からない。
こいつが何を考えているのかも、さっぱり分からない。
「‥前、テレビで見たんだ」
苦しそうに顔を歪ませる陰山を見下ろして、朝比奈が低い声で言う。
「人はな、キスしたりエロいことしたりするときが一番、生命のエネルギーみたいなものが発生するんだって」
「‥‥は‥‥‥?」
「幽霊はその人間の生命エネルギーが苦手なんだそうだ。‥だからな、幽霊とかに取り憑かれたときは、セックスするとその人間の生命エネルギーに負けて、幽霊がいなくなることがあるって‥」
「‥‥‥‥‥‥」
陰山は固まった。
朝比奈の言っていることが一つも理解できない。
キス?エロイこと??
生命エネルギー???
ただでさえ酸素が足りなくて頭がふわふわしているのに、無理矢理キスまでされて、頭が回らない。もう本当に何もかもが訳が分からない。
眉を潜めて停止している陰山を見て、朝比奈が優しく笑った。まるで太陽みたいな、いつもの笑顔だ。
「陰山。エロいこと、しよう。‥‥‥幽霊を追い払うために」
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