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 陰山は小学校に上がる前から、普通の人には見えない「何か」が見えていた。  それは人間の姿だったり、動物の姿だったり、また炎のような形をしていたりと姿は様々だったが、それが自分と同じ生き物ではないということを陰山は小さい頃から感じ取ったいた。  しかしそれが何なのかは詳しく分からなかったし、自分以外の他の人にも当たり前に見えるものだと思っていた。いずれ大きくなれば、大人が教えてくれるものだ、なんて思っていたりした。 「陰山くん、い、いいかげんにしなさい!!」  滅多に怒ることのなかった若く温厚な担任の女教師が、血相を変えて怒鳴ったあのときのことを、陰山は今でも鮮明に覚えている。  その日の朝から、陰山はひどく憂鬱だった。  その理由は、朝起きてからずっと、小学二年生の陰山の小さな肩に見知らぬ髪の長い女の子の形をした「何か」が乗っているからであった。    担任の優しい女教師は、いつにも増して具合の悪そうな顔をしている陰山を心配した。  どこか体調が悪いの、嫌なことがあったの、なんでも話してみなさい、と優しく陰山に声をかけた。  陰山から返ってきた答えはこうだ。 「先生、この女の子にあっちいってって、言ってください。」  僕が言っても、全然聞いてくれないんです、そう言いながら陰山は不安そうな顔をしながら自分の肩を指差した。  担任の女教師は、サァッと血の気が引くのを感じた。 「なに言ってるの、ふざけるのはやめなさい。」    先生、僕ふざけてないよ。朝から重くて、息が苦しいんだ。   「そういう遊びが流行ってるのね?授業が始まるわよ、もう席につきなさい」  だって、このままじゃ勉強できないよ先生。この子、これからもずっとここにいるのかな? 「陰山くん、もう遊びは終わり。ほら、女の子なんてどこにもいないでしょう。席につきましょうね。」  先生、なんでそんなこというの?先生、    この子が見えないの?   「陰山くん、い、いいかげんにしなさい!!!」  先生に怒鳴られた陰山は、目をパチクリさせたまま、訳も分からずその場に立ち尽くした。親意外の大人からこんな大声で怒鳴られたのは生まれて初めてだった。心臓がバクバクと波打ち、全身の毛が逆立つ気がした。  教師は顔を真っ白にさせて、顔を強ばらせたまま、席に戻りなさい、と静かに言った。  席に戻った陰山を見るクラスメイトの目は、恐怖と困惑で満ちていた。その異物を見るような目線は、陰山の肩に乗っている「何か」ではなく、陰山自身に注がれていた。  陰山はそのときはじめて、自分に見えているものが、他の人には見えないのだということを知ったのだった。  そして、自分にしか見えないその「何か」について話すと、人に嫌がられる、怒られてしまう、ということも学んだ。  陰山は、自分は人とは違うんだな、と幼いながらに理解をしたのだ。    その「何か」の正体を知るのに、そう時間はかからなかった。  この何かを、人や世間は「幽霊」と呼ぶ。それ以外に呼びようがないので、陰山もそう知ってからは幽霊と呼んだ。  そして中学生になってから、もう一つあることに気がついた。  自分は幽霊が見えやすい体質だとは認識してはいたが、それだけではないということに。    それは、自分は見えるだけでなく、取り憑かれやすい体質だ、ということだ。そして特に、良いか悪いかといえばあまりよろしくはない、悪霊の類いのものに好まれやすい、ということも。  
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