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高校は、寮付きの学校に進学した。
理由はたった一つ。移動距離をなるべく減らしたかったからだ。
中学校は、家から徒歩で20分ほどの近い距離にあったにも関わらず、大体悪霊に取り憑かれるのは登下校のときだった。
取り憑かれやすい体質の陰山が一人で道を歩くだけで、必ず一人は悪霊か幽霊が後ろを付いてきた。学校の教室や家の中にはさすがに人の気が多すぎるのか、あまり近寄っては来なかったため、陰山が一番恐れたのは登下校だった。
それならば登下校の距離をなるべく縮めてしまおう、そう思い付いた。
自然の多い、落ち着いた雰囲気の、静かな町の中にある寮制の篠森高校。
この高校の寮ならば学校のすぐ横に併設されているし、教室のある本館から寮に向かって歩かなくてはいけない距離はたったの5分程度。
寮のある南寮館は新設されたばかりだ。新しく綺麗な建物には悪霊や幽霊はあまり寄り付かない。寮の中で悪霊に恐怖する必要はおそらく無いだろう。
そして陰山は15歳の春、住んでいた町を離れ、篠森高校へと入学した。
しかしそこで、陰山の予想もしていなかった事実が発覚した。
それは、陰山に貸し出される寮の部屋は、とても古い部屋だということ。
そしてもう1つは、この高校の寮は複数人制で、1つの部屋に2人から4人でルームシェアをする形だったということ。
まず、これは陰山の下調べが足りなかったことが問題だが、実はこの高校には寮のある建物が2つあった。一つは新設されたばかりの南寮館、そして古くからずっと使われてきた北寮館。新入生の数が増えたため、北寮館だけでは寮の数が足りず、新しく建設されたのが南寮館であり、新しく綺麗な方の南寮館は先輩達が使うことになっていた。そのため陰山を含む新入生たちは、古く暗い、そう今にも幽霊が出そうな北寮館を使わなければならなかった。
案の定、北寮館には幽霊がうじゃうじゃいた。
はじめはその北寮館のおどろおどろしい雰囲気に、怖い怖いと泣き出す者までいたが、数ヶ月経てば皆慣れた。
しかし陰山だけはいつになっても慣れることはなかった。
人の出入りが多いため悪霊こそ多くはないものの、それでも幽霊たちは陰山が自分のことを見える人間だと知ると、わらわらと集まってきては、驚かせようとしたり背中に乗ったり陰山の頭上をふわふわと回ってみたりとやりたい放題だった。
おかげで神経は疲れるし肩はこるし顔色はますます悪くなり、陰山からはもう負のオーラというよりもはや死のオーラがぷんぷんしていた。
陰山の生活は改善されるどころか、むしろ悪くなっていく。
しかし陰山へのダメージが大きかったのは、幽霊よりも人間だった。
幽霊以上に人が苦手になっていた陰山にとって、ルームシェアというものは、幽霊に取り憑かれる何倍も辛かった。
陰山は4人制部屋の寮だったが、気がつけば陰山を抜いた3人はいつのまにか仲良くなっていて、陰山は1人孤立した。
霊感がなくても、陰山の醸し出す独特の病的な雰囲気に、彼らもなんとなく感づいて本能的に避けていた。
陰山自身人と関わることを苦手としていたため、
まあ俺はこうやって1人でいるのには慣れているし、むしろ1人の方が楽だからこれでいいのだ、作り笑いを浮かべて人と関わるのは時間の無駄だ、めんどくさい、そう心の中で繰り返して毎日をやり過ごした。
嫌でも少なからず感じてしまう疎外感や孤独感は、ただの気のせいだと押し潰しながら。
それでもなんとか陰山は1年やりきった。
中学の頃よりも体が成長したこともあり、耐性が付き始めたのか、授業も毎日出ることができた。
だとしてもやはり幽霊達のおかげで毎日疲労は溜まる一方で、寮に帰れば制服のままベッドで眠ってしまうこともあった。
あ、こいつまた制服のままで寝てる(笑)
こいついっつも寝てるよなー。睡眠はちゃんととってる癖に顔色悪いのはなんなの?きもちわる
何かの病気とかなんじゃね?
えー俺うつされたくないんだけど。
ベッドの上で顔を枕に埋めたまま眠る陰山を横目に、ルームメイトたちは声を潜めて意地悪そうに笑った。
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