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「ねぇ、あの男子大丈夫かな?凄い具合悪そうだけど」 「あー2組の陰山くんね。大丈夫?って声かけても、ほっといてくれって冷たい態度とられるだけだから、心配するだけ無駄だぞ」 「え、そうなの?でも顔白いし隈すごくない?‥もしかして持病とか?」 「知らねえ。陰山って名前してるだけあって、元からああいう暗い顔なんじゃねーの?生まれつき根暗とかまじうけるわー」  体育館へと繋がる石段の途中に腰かけ、鬱陶しいくらいに晴れた青空を眺めていると、そんな悪態が聞こえてきた。  持っているラケットを肩に置き、自分のことを見てニヤニヤと笑いながら歩いていく男と、その隣を歩く女の後ろ姿を陰山は見送った。    そんなことを言われるのはもう慣れてしまったが、幽霊にとり憑かれるからって、陰山も一応人間だ、癪に触らないと言えば嘘になる。  男の後頭部めがけて小石を投げると、見事に直撃し、いてぇと悲鳴をあげる男を見て陰山は「ざまあみろ」と頬笑む。なんて、そんな想像をすると少しスッキリした。  今日の体育の授業は校庭でテニスだが、陰山はいつも通り見学だ。  見学をするときの定位置である石段の4段目に座り、ただぼーっと、空や走り回る生徒たちを眺める。これが陰山の体育の授業の過ごし方だった。    見学をする理由は大体、熱やら頭痛やら腹痛やら仮病を使っているが、しかし今日は本当に体調が悪い。  運の悪いことに、どこから呼び寄せてしまったのか顔のない黒々とした人の形をした物体―――おそらく悪霊が、朝起きてからずっと陰山の細い体に絡み付いたまま離さないのだ。  いい加減にしてくれ、と本日何度目か分からない深いため息が出た。  肩から腰にかけて子供一人分くらいのズッシリとした重みがあり、たまに耳元で子供の不気味な笑い声が響く。おそらくこの悪霊、元は子供の幽霊なのだろう。だからって朝からずっとおんぶ状態、甘えん坊にも程があるだろう。俺は子守りは好きじゃないんだが、と試しに呟いてみても一層楽しげに笑う声が返事をしただけだった。  
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