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週に一回は、役所の人が月からやってきては、立ち退くよう説得される。つい、頭を下げてしまう。
グッドテレビの記者がまた来て、インタビューを受ける。
「坂本さん、この前は、ワープして立ち退いたかと思いましたよ」
「え? びっくりさせたかっただけ、ですよ。私はこれからも、地球にひとりで住みつづけます」
テレビ映りを考え、笑顔で応じてしまった。
坂本日記を読んで、屋内にある機械の使い方や、24世紀の社会について勉強した。
24世紀には、自分の容姿も年齢も自在に変えれるそうだ。食料や生活に必要なモノはネット通販で、月にあるドーム都市から、宅配用無人宇宙船で運んでくれるそうだ。
通貨の得る方法は簡単だ。家庭菜園で、季節の野菜や花を育てて、ネット通販で売れば、一部の地球マニアが買ってくれる。野菜や花は、月に帰る宅配用無人宇宙船に載せるだけだ。
連日、孤独に耐えながら、庭や家の手入れや、家事をする日々が続く。インターホンが鳴る度、僕と同じ21世紀からタイムマシーンできた人か、期待しながらドアを開けてしまう。
24世紀で“坂本“をしながら、10年が過ぎた。長く遠く、つらい日々を過ごす。ある日。インターホンがなった。
ピンポーン
面倒くさいが、玄関のドアを開けば、男性が立っている。傍らには、あの夢にまで見たタイムマシンがあった。
「こんにちは。遠くからきました」
「良くぞ、良くぞ、遠い所からお越しくださいました」
僕は、視界がうれし涙で滲む。頬の筋肉が緩んでしまう。男性の片手を、頷きながら、両手で力強く握り締めていた。(完)
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