19人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
スマホの朱里の写真は消去だが、正面から撮影した笑顔の一枚だけは、どうしても心残りがあり、パソコンにも保存する。孫との約束を破った罪悪も感じた。
ブログサイト、『セレクショングッド』にタワーからの風景写真を投稿することにした。
ほかのネット上でしかお付き合いがない人々が、コメントで褒めてくれるのがうれしいからだ。
自身のブログに“令和×年十月一日。花立タワーより。杏仁五聖が撮影。”と書いて、写真、数百枚を投稿した。
うっかりして、朱里がチョキをして顔がアップの口の端を上げた写真も、一枚、混ざっている。
しかも、学校名と小野寺という名字まで写っているのだ!
インターネット上に流出した画像は、悪用される危険性もある。
龍が、“公開”をクリックするだけで、インターネットで全世界に朱里の写真が発信される。
ふと、マウスに重ねた手が止めて、モニターのある一文に見入る。“予約して公開”だ。
「予約して公開? どうせ見る人少ないから。そうだ!」
花立タワーが取り壊される、苛立ち混じりのいたずら心で、投稿したい日時を二百年後の十月一日に設定した。
“予約して公開”をクリックしながら、口角を吊り上げる。
「二百年後を設定できるなんて、エラーだよ。どうせ、『セレクショングッド』存在してないよ」
***
パソコンが寿命で壊れてしまうが、『セレクショングッド』のパスワードを、龍は思い出せない。なにしろ龍も仕事が忙しくなっていたのだ。
花立タワーの取り壊し、及び、花立駅の新築工事が、龍の人生で最後の仕事になる。
その後、龍は、アパートを引き払い、息子の家族と四人で暮らした。
最初のコメントを投稿しよう!