距離と温もり ★

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距離と温もり ★

 気を取り直して読書に没頭していると、和が慌ただしく帰宅した。  挨拶もなく、ろくに顔も見ないうちに、酒と香水が強く漂う体に抱き締められた。 「ど、うかしたんですか?」 「おかえりなさい」と言って背中を撫でてやると、大きく息を吸いながら和が「……ただいま」と洩らす。腰に回された腕はどこか苛立っているようで、いつもの和とは力加減が違った。 「大丈夫ですか?」 「すごく、疲れた……」 「遺言書、大変だったんですか?」  颯太が問いかけると、首元で息を吐く音が聞こえた。 「ううん、それはちゃんと終わったよ。怪我人が出ることもなく」  なら、何が問題だったんだろう? 不思議に思ったが、冗談めいた口調に反して、颯太から体を離した和は笑っていなかった。  一日着ていたせいでシャツには皺が寄っている。その襟を緩め、首元からネクタイを抜く仕草がいやに威圧感を感じさせる。  颯太の肌は反射的にぶわりと粟立った。酒も入っているし、いつもより感情を自制できていないのだろうか。ヤクザの片鱗を見ている気がして落ち着かない。 「和さん?」 「……いくら血が繋がってるって言われても、親も親戚も、誰のことも好きになれないんだよね……このまま彼女のことも好きになれなかったら、少し寂しいね」  そう独り言ちる和の背中を、颯太は慰めるように撫でてやった。 「本家に行くと、寿命を削られた気分になるよ」  和は一体、何を言われて来たんだろうか。  組の話を、他人の颯太が立ち入って聞いていいかわからない。とても気になるのに、一歩踏み込めない度胸のなさが悔しい。 「……和さん、酔ってるんですか?」  絞り出した声は少し掠れてしまった。 「どうだろう。夜は結構飲まされたし、酔ってるかもしれないね」  自覚はないけど、と付け加える辺り、本当に酔っぱらっていそうだ。だが、酔っていそうとはいえ、和の弱っている姿を見るのは初めてで、胸がざわつく。 「俺、水持ってきます」  そう言ってその場から離れようとすると、和に強く腕を掴まれた。その力があまりに強くて、思わず目を見開いてしまう。 「和さん?」 「水はいらない。それより、早くベッドに行きたい」 「うわっ、ちょっと……っ」  ふらふら立ち上がった和に抱えられ、ベッドルームへ連れていかれる。そして、文字通り二人でベッドに雪崩れ込んだ。 「ったぁ……」  痛みはないが背中を打ち付けた衝撃はある。 「こういうの、危なすぎます」  颯太は自分を押し倒している亜麻色の髪を引っ張って抗議した。 「和さん、苦しい」  それに早く退いてもらわないと、せっかく揉み消した一抹の期待がまた燻り出してしまう。  しかし、颯太の苦情は全くと言っていいほど取り合ってもらえなかった。 「布団からお日様の匂いがする」 「昼間、干してましたから」 「颯太もボディソープのいい匂いがする。シャワー浴びたの?」 「あんまり嗅がないでください」  颯太が身動ぎすると、和は笑ってわざと深く息を吸った。互いの体のラインを感じるくらい密着してきたと思ったら、またしばらく動こうとしない。なんの遊びだろう。 「……寝ました?」 「寝てないよ」  遠慮がちに髪を撫でると、和はくすぐったそうに笑った。 「颯太にくっついてると癒されるな。体温かな? 気持ち良くて、颯太が隣にいるとすぐに眠くなる」 「寝起きが悪いのも、俺が原因ですか?」 「それは前から。でも本当、こんなに寝つきが良いのは思い出せる限り初めてだよ」  さっきまでナーバスになっていたからか、言葉を深読みしてしまう。不用意なことを言うのは止めてほしい。 「それ、褒めてくれてるんですか?」 「褒める、とはちょっと違うかも」 「……この酔っぱらいめ」 「ははっ、ひどい」  遠回しに眠りたいと言われているんだろう。妙なところで律儀な和だ。もし昨晩言ったことを気にして堂々と休めないのなら、それは申し訳ない。 「疲れてるなら早く寝てください。ほら、布団被らないと風邪引きますよ」  和の下から這いずり出て、下敷きにしている掛け布団を引っ張った。和が協力してくれないことには布団を掛けてやれないのに、和はまだ動こうとしない。 「和さん、体起こして」  だが、そう頼み込んでやっと動かしてくれたのは、腕でも脚でもなく唇だけだった。それも電化製品への命令。 「オッケーグーグル、照明落として」 「ちょっと、和さん!」 『わかりました。照明を十%にしました』 「あ! ……まったく。俺、今日はソファーで寝ますから、ふざけてないで寝るなら早く──」 「ソファー? どうして?」 「どうしてって、疲れてるなら、一人で寝た方が……」  言葉が尻すぼみになる。  セックスもしないのに、今晩は和の隣で寝たくない。さすがにそうは言えなかった。「続きは明日」を無かったことにされて拗ねているみたいだし、どこか落ち込んでいるところに、昨晩のように行為を強要して気を揉ませたくない。 「今まで別々に寝たことなんてなかったじゃない」 「そう、ですけど……」 「昨日のお願いは却下ってこと?」 「え?」 「練習、続きは明日お願い、って言ったんだけど」  起きあがった和の顔が、息がかかるほど近づいてきた。こんなに近いのに、逆光になっているせいで和の顔ははっきり見えない。 「昨日、寝てて聞こえてなかった? 颯太は頷いてくれたと思ってた」  暗くて良かったと思う。今の自分は、和に見られたくないくらい耳も頬も赤いはずだ。  頭を撫でられ、耳の裏をくすぐられる。その手つきは、まるでペットをあやすようだ。颯太が目を瞑ると、熱い両手で頬を掬われた。 「あ、の……」 「颯太?」  くそ、両耳を塞ぐのはやめてほしい。鼓動が頭の中に反響してうるさい。 「……聞こえてましたよ」  聞こえていたから布団はふかふかだし、下着だって新品を着ている。  平静を装いきれなくて目を逸らすと、和は疲れた顔を綻ばせた。 「よかった。俺のぬか喜びじゃなかった」  色を含んだ声音に思わず体が反応する。唇を開いて熱い息を吐けば、その熱はすぐさま和に吸い上げられた。 「ふ……、っ……ぅ」  唇を重ねたまま口腔に舌が差し込まれる。颯太は和の腿に手をつき、その舌に自ら舌を絡めた。わずかに呼吸を乱しながら和が眉をひそめる。 「本当に、最後までいいの? もう嫌じゃない?」 「嫌って……?」  ぴっとり舌を重ねているだけで、息があがるくらい気持ちいい。舌先を噛まれれば、鼻から抜けるような声が出た。 「いつも、触ると体が強張るの。知ってた?」  最初だけだけどね、と和は笑うが、その声にはどこか遠慮がある。  それは知らなかったが、もし体が強張っているとしたら、十中八九、セックスは痛いものと知っているからだ。だが今は、気遣われるより喋るより、もう一度キスしたいと思っている。目は和の濡れた唇に釘付けだ。  颯太はわかりやすく喉を鳴らした。和を嫌だと思ったことなんてない。役目を果たしたくてずっと焦れていた。 「そしたら……キス、しててください……」  膝立ちになり、返事を待っている和に唇を押し付けた。首に抱きついて深いキスを続ければ、パジャマの裾から入り込んだ手が順に素肌を撫でてくれる。 「ふ……ぅ、……っ」  背中、脇、臍、胸。期待を隠さない肌はすぐに和の手に馴染む。 「颯太はキスが好きだね。ね、じゃあ他にもキスさせて」  唇が離れたと思ったら乳首を摘ままれた。捏ねられ、パジャマの上から齧られる。堪らず声が出そうになり、きゅっと唇を結んだ。ネイビーのフランネルにはじわっと和の唾が染みて見える。 「……っ、ん……っ」  前のめりになった和の背に手を這わせ、颯太は徐々にじんじんし始めた胸に息を漏らした。 「痛い?」 「痛くはない……です、でも、シャツ脱ぎたい……」  生地の黒く円に染まった部分が、愛撫された証のようで恥ずかしい。  颯太がそう溢すと、シャツはあっという間に剥ぎ取られた。露になった胸を強く吸われ、電流のような痺れが体を抜けていく。 「声、聞かせてくれないの?」  上目遣いで言われても無理だ。胸を弄られて声をあげるなんて羞恥心が許さない。腰が揺れるのを堪えながら、颯太はふるふると首を振った。  声が聞きたいのなら、早く別の所に触れて欲しい。そうしたら、少しは声を出してもいい気がする。 「そこ、もういい……」 「もう少し。ちゃんと悦くなってもらえるまでやりたい」  颯太が感じていることはわかっているはずなのに、和は胸への愛撫を止めてくれない。飾りを唾液で濡らしながら、甘く噛んでは舌で嬲り続ける。 「……ぁ、っ……っ」  弄られ過ぎた乳首は、息を吹き掛けられるだけで下肢を疼かせる。颯太は一向に顔をあげない和の頭を抱き締め、その硬い胸に下肢を擦り付けた。  和が喉の奥でくっと笑い、颯太の腕の中で顔をあげる。 「乳首ばっかり嫌?」 「嫌です……」 「こっちも触ったら、もっと気持ちよくなれる?」  反応しきった性器をズボン越しに撫でられる。たったそれだけで、性器の先端から蜜が滲むのがわかった。けど、欲しいのはもっと直接的な刺激だ。口をへの字にして和の手に下肢を押しつけていると、「脱がせてあげるから待って」と窘められた。  パジャマのズボンを膝まで引き下ろされ、腰骨の皮膚の薄いところをチュッと吸われる。 「ちゃんと自分のパンツ履いてくれてる。嬉しいな」  露になった下着を見るなり、和は顔を綻ばせた。 「そんなこと……、っ」 「だって、シャワー浴びて、新品のパンツ履いて、俺を待っててくれたんでしょ? それって嬉しすぎる」  腰骨の出っ張りに歯を立てられ、大きく腰が揺れた。皮膚の薄いところにチュッチュッとキスが落とされ、気づけば下着を捲られていた。 「こんなにさせてたんだね」  和は蠱惑的に笑うと、剥き出しになった颯太の陰茎を握った。 「あ……、んっ」  手を優しく上下させ、親指の腹で雫の湧いた先端を撫でる。滑りを広げるように窪みを弄られ、颯太は全身を震わせた。 「気持ちいい?」  颯太の様子を見ながら、和が手つきを変えてくる。気持ちよすぎて、和の手から目が離せなくなった。  男同士だから悦いところがわかる、というのはあるかもしれないが、それにしたって和には人を気持ちよくさせる才能があると思う。そうじゃないと、少し触れられただけで射精感がこみ上げてくるなんて、おかしい。 「あっ、あっ、んっ……、和さ……っ」  陰茎をしごかれながら、張りつめた陰嚢を左手であやされる。もぞもぞ腰が揺れるのを我慢せずにいたら、どさりとベッドへ押し倒された。 「な……っ」  突然景色が逆転し、思わず目を見開いた。 「ねえ颯太、このままイキたい?」  枕元に転がっていたボトルからジェルを手に出し、和はその手を颯太の後孔に擦り付けた。ひくつく絞りに指を侵入させ、和を受け入れる準備を始める。 「はぁ……っ、あ……っ」  あと少しのところで放置された昂りが切なく震えている。何も言わずに和を見上げると、和は困ったように「うーん」と唸って笑った。 「射精してからすぐ挿入すると、中で痛みを感じるらしくて。だから、今は我慢できる? あとで何度でもイかせてあげるから」  甘い声で命令しながら、和の手が性器を撫でてくる。そんな風に説明されると何も言えないのに。  颯太は両手で顔を覆い、細く息を吐き出した。 「……ッ、もう、好きにしてください……っ」  返事の代わりに手の甲にキスが落ちてくる。性器から手が離れ、代わりに膝の裏に手が差し込まれたのがわかった。  片足を胸につくまで折り畳まれれば、自然ともう片足の膝も上がる。恥ずかしすぎる格好に、顔を覆っていた両手にも力が入る。 「顔、見せてくれないの?」 「むり、です……」 「声も?」  颯太は首を左右に振り続けた。和の苦笑いが聞こえる。 「俺しかいないのに」  和がいるから恥ずかしい。 「ちゃんと見てないと、何されるかわからなくて怖くない?」  ふいに足の指を甘噛され、その刺激で声が出た。 「ああっ……!」  どこを刺激されても腰に響く。どんなに意識が下肢に向かないよう努力しても無駄だった。  一昨日までの行為の中でも、和は後孔を解しながら足や背中を撫でていた。 「他のところを触ってあげると、颯太のここは早く柔らかくなるよ」  と教えられたが、真偽は確かめようもない。 「もうちょっとだけ、ね?」  脹ら脛に啄むようなキスを施され、気が散っている隙に中の指を三本に増やされた。後孔がめいっぱい広げられている感覚がするが、圧迫感はあっても痛みはない。目を瞑っている今でも、徐々にセックスへの恐怖心は感じなくなっていた。 「颯太、そろそろ手退けて?」 「……っ、む、り……んんっ」  目を塞いでいるこの手を退けたら、視覚的にやばいものが見えそうで怖かった。  和の顔、体、自分のあられもない格好。視覚を塞いでもなお、それを補うに余りある情報が耳から入ってくる。継ぎ足されたジェルが後孔から溢れてくる音や和の息遣い、自分のくぐもった声。怖さがなくなった分、羞恥でどうにかなりそうだった。 「顔、見せてほしいな」 「……嫌、です……」 「嫌か……。けど、見えないと感じてくれてるかわからないし、これじゃ練習として足りないかもしれない……」  中に埋めた指をぐーっと広げ、颯太を喘がせながら、和は適当なことを言う。絶対にそんなことはないのに、「困ったなぁ」と和の芝居がかった声が聞こえてくる。 「颯太?」 「……ねえグーグル、電気消して……っ」 「あ! もう……仕方ないな」  部屋が暗くなったことを確認し、颯太は顔から手を離した。ずっと目を閉じていたお陰で暗い部屋でも目が利く。  すぐ近くにあった和の顔は、欲を露にしながら額に汗を滲ませていた。 「和さん……、ひぁッ」  和の長い指が中の硬く膨らんだ箇所に触れ、颯太は抑えられない嬌声をあげた。  手近なところにあったシーツを掴み、腰が震えるのを混乱する頭で受容する。腰がビクビクと跳ねるのに、膝を固定されているせいで動くことも出来ず、降って湧いた快感をやり過ごすしかない。 「ああっ……、あっ、やあっ……、……あっ」  初めはくすぐる程度だった和の指が、胡桃状の肉を優しく摘まみ、次第に指圧するように押してくる。性器には一切触れられていないのに、ひっきりなしに声が溢れる。感じたことのない種類の感覚に焦りが増した。 「和さ……っ、これ、あっ……、な、にっ」  見れば、颯太の腹の上には先走りが滴り落ちていた。射精させてもらえない性器はだらしなく透明な蜜を溢し、吐精をせがむよう健気に震えている。 「痛い?」  和の掠れた声が訊ねてくる。 「痛くは、な、ああっ……んっ」 「中、気持ちいい?」 「やっ、わからな、っ……だめ、やめっ」  何度目かわからないその問いかけに、颯太は初めて答えた。答えたというより懇願に近かったかもしれない。 「あっ、もう、出そ……っ」  中で快感を得ているのかはわからないが、今にも果ててしまいそうなのは確かだ。和に我慢しろと言われたから、こうしてフゥフゥ息を吐き、度々訪れる射精感の波をやり過ごしているに過ぎない。  颯太は自分の下肢に両手を伸ばし、その根元をぎゅうっと握りしめた。こうすると一時だけ射精感が遠退く。だが、苦しくて少し惨めで、目尻に涙が滲んだ。 「和さ……早く、イキたいっ」  訴えるよう見上げれば、濃厚な色香をまとった和と目が合った。 「あ──っ」  いつもと違うその様子に見とれてしまう。鼓動が速くなり、全身に汗が湧く。 「颯太、少し、腰あげてみて」 「へ……っ、え……」  飴色の目に見つめられながら、颯太はゆっくりと腰を持ち上げた。腹筋に力が入り、それに伴って中に埋め込まれていた和の指が胡桃を強く押し上げる。 「っ、ああっ、はぁっ、あっ……、和さんっ」  強すぎる刺激に颯太は高い声で喘いだ。性器を握っていたおかげで射精こそしなかったが、溢れた涙がつつと蟀谷を伝う。 「それ、覚えてて」  鼻をすすり上げると、泥濘んだ後孔から指が引き抜かれた。咥えていたものを取り上げられ、窄まりが口寂しそうにひくつくのがわかる。 「颯太……」  名前を呼ばれて見上げると、先走りで汚れた颯太の両手は、いつの間にか服を脱いだ和の肩に導かれていた。 「挿れるから、痛かったら教えて」  滑らかな肌に覆い被され、柔らかくなった後孔に熱が擦り付けられる。耳朶を優しく噛まれ、思考の回らなくなった頭で颯太は何度も頷いた。 「はあ……っ、あっ、……っ」  熱を泥濘へ沈めるように、和の屹立が隘路を分けながら中へ挿っていく。颯太は浅い呼吸を繰り返し、その結合部に眺め入った。  正常位は腰を高く掲げないと難しい。そのせいで、自分の性器が限界を訴えている様子も、挿入が深くなるにつれ、温まったジェルが後孔から溢れてくる様子も見えてしまう。薄いゴムの膜越しに、和の猛りに脈が浮いているのも見える。 「ぅ……ふぅ……っ」  今、自分の体を侵しているのは和なのだと思うと胸が喘いだ。一昨日までの和は性に無反応で、昨日は颯太に練習さえ求めていなかった。これでやっと役目を果たせる。確かな喜びを感じた。 「颯太……っ」  颯太は和の肩に置いていた手を汗ばんだ背中へと回した。中の角度が変わり、和の雁首が散々颯太を鳴かせた胡桃を抉った。 「ひっ、ああ──……ッ!」  颯太は全身を強ばらせ、訳もわからず和にしがみついた。 「あっ……はぁっ、ふぅっ……っ」  目はきつく閉じているはずなのに、視界は白んでいる。額に玉の汗が浮かび、快感が背筋を通って頭のてっぺんから抜けていった感覚がした。  塞き止めていなかった颯太の性器は、顎まで白濁を迸らせていた。  頭上から呻く声が聞こえ、苦笑いする和と目が合った。 「持っていかれるかと思った」 「な、にを……?」  颯太が首を傾げると、長い指で腹を押され、「これを」と腰を揺すられた。 「ぁ、んっ」  くちゅっと水音が立ち、ほんの小さな動きでさえ、和の陰茎が颯太の内襞に擦れるのがまざまざとわかる。和の硬く屹立したものは、いつの間にか颯太の奥深くまで拓いていた。 「颯太の中……すごく気持ちいい……」  そう言って、覆い被さるようにぎゅっと抱き締めてくる。和の香水の匂いが鼻を掠め、颯太は肩で息を吐きながら全身の力を抜いた。  一度射精してしまえば、少しだけ思考力に余裕が生まれる。好き勝手動かずに我慢している和の優しさや、首筋に落とされるキスの艶かしさ、あやすように乳首を摘まんでくる指のいやらしさを感じる。和から与えられる刺激全てが颯太へ快感をもたらしていることも。 「挿れただけでイッちゃうなんて、そんなに悦かった?」  どこか誇らしげな声に、颯太はかっと頬を染めた。 「なっ……そん……」 「別に何も言わなくていいよ。悦くなってくれてれば、それで嬉しいから」  和がふふっと声をあげて笑う。その動きさえ腹の中に響く。 「っ……脱、童貞ですね……」 「あ、そうだね」  セックスは挿入して終わりじゃない。動いて擦って出して──。 「ちょっと、感動的だな……」  和はそう言うが、颯太が「今日はここまでにしてほしい」と言えば、猛りを抜いてくれる気がした。もちろん、途中で止める気なら布団を干して待ったりしないが。 「……動かなくて、いいんですか?」 「動いて平気?」 「そんなの、あ……っ」  颯太を試すように腰を使われ、上から熱い息が降ってくる。 「っ、どうぞ……んぅっ」  深いキスをせがまれ、応えているうちに体は和の好きに揺さぶられていた。 「……っ、颯太っ」  初めてでセックスに慣れていないはずの男に、きっと欲を我慢させていた。いちいち気遣ってくれなくてもいいのに。 「あっ、ふ……、ぅあっ……」  高い位置で腰を固定され、押し込むような抽挿が繰り返される。射精直後の昂っていない体は、中を擦られると所々で悲鳴をあげた。さっきまで平気だったのは、イキたくて他の事が考えられなかったからだろうか。それとも指と和自身との質量の違いだろうか。最奥を突かれると鈍く痛む。 「あっ、っ、はぁっ、ダメ、ま……てっ」 「何がダメ……?」  腰を送り込みながら和が聞いてくる。 「奥っ、……あっ、痛……ッ」 「ああ、ごめん、気持ちよすぎてつい」  和はそう言うと、少しだけ腰を引いてくれた。それだけで中が快感しか感じなくなっる。 「ふっ、ぅ、っ、あっ、あっ」  気持ちいい。セックスがこんなに気持ちいいなんて初めて知った。 「颯太、自分で弄ってみて」  和に促され、颯太は半勃ちになっていた性器に手を伸ばした。他人に自慰を見せるなんて絶対に嫌なのに。指で輪っかを作り、自分の一番好きな力加減で陰茎を擦る。すぐに硬さを取り戻したそれは、擦ってやる度に和に絡んでいる内襞を蕩けさせた。 「中、うねってすごいことになってる」 「ひっ……、やあっ……、あぁっ、ぁっ……」 「……馬鹿になりそう……」  舌舐めずりをした和は颯太の脚を抱え直した。入り口から奥まで全てを擦るように抽挿が繰り返される。夢中で性器を擦ると、中がきゅっきゅっと締まるのがわかった。 「だめ、……だめだからっ、あっ、……やあっ」  うわ言のように「だめ」を繰り返す颯太の耳朶を噛み、和が耳の中に直接「俺はすごくいい」と熱い息を吹き込んでくる。  胸がばくばく鳴ってうるさい。 「可愛い……」 「和さ……っ、……またっ、出そう……あ、っ」  再び限界を迎えようとしている性器はしきりに涎を溢し、擦りたてる颯太の手をぐしょぐしょに濡らしている。奥から込み上げてくる奔流に逆らえず、張りつめた幹がいっそう膨らんだのを感じた。 「イく……っ、も、ああっ、く……っ」 「俺も」  キスを重ね、足の先から頭のてっぺんまで和と快感を共有する。再び最奥を突かれても、もう痛みは感じなかった。 「はあっ、あぁっ、っ───!」  振り落とされないよう左手で和の首にしがみつく。  経験のない快感が視界をチカチカさせる。颯太が白濁を迸らせたとき、その悲鳴じみた嬌声は少し遅れて果てた和の唇に吸い込まれていた。
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