ありがとう ★

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ありがとう ★

 ベッドに四つ這いになり、促されるまま腰を高く突き出す。  一糸纏わぬ姿では、どれだけ下肢に力を入れても、その奥にある秘所を隠すことは出来ない。臀部に両手が添えられるだけで簡単にその全てを晒してしまう。そのあまりに扇情的なポーズに羞恥心が煽られる。全身は赤く染まり、力の入らなくなった脚が笑う。 「ふ……ぅ、っ……んっ」  颯太はフゥフゥ息を漏らし、肘で踏ん張って下肢を揺らした。  ありえない箇所をずっと舌で愛撫されている。まるで襞の一つ一つを舐めるかように、濡れた舌が後孔の内側で蠢いている。その舌の感覚と肌にかかる熱い吐息。もう我慢も限界だった。 「もっ、……い、い……っ」  颯太は掠れた声で哀願した。丁寧に解された絞りはすっかり綻び、これから与えられる快感を期待してひくひく喘いでいる。これ以上舐められてもふやけるだけだ。必死でそう訴えているのに、和は逃げようとする颯太を「だーめ」と言って引き留める。そして熱い手のひらで腰や脚を宥めるように撫で、勿体つけながらその長い指の一本を後孔に埋めた。 「あっ、ッ、あ──っ!」  散々解された絞りは、指一本だけでなく三本さえも簡単に、美味そうに受け入れる。 「ふ……ぅ、ぐ……っ」  颯太は肌を粟立たせ、奥歯を噛んで声を殺した。嬌声より鼻から抜ける声の方が何倍も甘く響く。だがそんなことは気づかなくて、和の指先が颯太の感じるポイントを嬲る度に「んっ、んっ」と息を漏らした。どれだけシーツを手繰り寄せても、枕を握りしめても、本当に声を我慢するなんて出来なかった。 「んっ、ぁ……んんっ」 「可愛い」  和の手の動きに合わせ、卑猥な水音が聞こえる。溢れた雫が内腿を伝い落ち、脚の間では反応しきった性器が蜜を溢している。  シーツにはいやらしい染みが広がり、追い立てられた颯太の限界を知らせていた。 「はぁ、そこっ、も、だめ……は……っ」  童貞を脱した男の指先は、的確に颯太の弱い場所を抉ってくる。繋がるための準備を施しているというより、蕩けていく颯太を可愛がるように意地悪だ。 「ぅ……ふっ、ぁっ、は、あ……っ」  このまま刺激され続けるだけでも気持ちいい。でも目先の快感よりも、先程から太腿に当たっている熱が欲しい。中で和の熱が脈打つのを感じたい。和の熱で中を擦ってほしい。 「颯太?」  颯太は上体を捻り、和に求めた。 「和さんの、も、中に欲し、挿れてほしい……っ」  和の喉が鳴った気がした。 「ぅっ……も、早く……ほし……」  熱に浮かされながら、腿を擦り合わせ、はしたなくねだる。  揺れる腰を我慢せずに駄々を捏ねていると、「セックス中の颯太はずるい」と和に苦笑された。ずるくたっていい。和が煽られてくれるなら、自らの指で秘所を開いたっていい。だが生憎、和は何もさせてくれないから、与えられる愛撫を甘受している。  和はマイペースに颯太の背中を舐めると、そのまま汗ばんだうなじに噛みついた。甘い刺激が背筋を駆け抜け、腹の奥がいっそう疼く。 「やあ……っ、あ……んっ」  背中に和の胸が重なる。心臓の早鐘がダイレクトに伝わってきて、伝染するように颯太の胸も高鳴った。  早く、早く──。待ちきれない後孔が中に挿っていた和の指をいっそう締め付ける。 「ふ……ぅ、うっ」  指がずるりと引き抜かれる感覚、ひくつく絞りに熱い切っ先を押し付けられる感覚、颯太はシーツを握りしめて喉を鳴らした。 「颯太……」  挿れていい? その問いかけに何度も頷く。和がようやく中に挿ってくる。 「和さ、ん……っ」  和は小さく呻くと、その猛りをぐっぐっと中に押し挿れてきた。 「ああ──ッ」 「……っ」  圧倒的な存在感が媚肉を撫でながら挿ってくる。颯太は腰を突き出したまま猫のように背中を反らせた。 「ひ、ぅ……ああっ、あ……っ、あっ」  悦すぎて頭が真っ白になる。まるで腹の中から五体、五感の全てを支配されたような感覚を覚える。 「颯太、少しだけ足開いて? もっと奥まで、挿入らせて……」  和は甘い吐息を吐きながら、颯太の腰を掴む手に力をこめた。いつもより低い和の声に全身がうっとりする。 「お、奥……?」  颯太が惚けた声を出すと、「うん」という答えと共に耳朶を噛まれた。 「んっ……や……」  奥? もう一番奥まで届いているのに?  和がぐりぐりと腰を押し付ける度に腹の壁にぶつかって鈍く痛む。すでにきっと届いてはいけないところまで届いている。 「お願い……」  颯太はぼーっとする頭で、和に言われた通り足を開いて腰の位置を下げた。身じろぎしただけで内壁が擦れて気持ちいい。だが、その分だけ結合が浅くなり、すぐに物足りなくなった。 「は……っ、……和さ、ん……?」  動かないのだろうか? 颯太が焦れていると、肩を掴まれぴったり背中に密着された。  そして、戸惑う颯太をよそに、腰をぎゅーうっと押し込められた。  最奥だと思っていた壁を押し開け、和の屹立が颯太の中に入ってくる。 「ひッ、ああああああ──っ!」  訳もわからないまま、颯太の唇からは悲鳴じみた声が出ていた。 「あ……、ぅ……あ……っ」 「颯太……」  一瞬の痛みを感じた後、颯太は呆気なくシーツに吐精していた。  何をどうされたのかわからない。今すぐに理由を知りたいのに、全身が弛緩してしまっているせいで、「あ」とか「う」としか声が出せない。目の前がチカチカする。口の端からは雫が垂れ、性器は射精を止められず白濁を溢し続けている。自分の体がコントロールできなくなっていて怖い。  目を見開き、颯太が必死で浅い呼吸を繰り返していると、うなじについてしまった歯形にキスが落ちてきた。 「大丈夫だから、そのまま気持ちよくなってて」  和はそう囁くなり、ゆさゆさと腰を揺すり始めた。屹立のまるい先端を最奥に嵌めたまま、中をゆっくりゆっくり穿たれる。颯太の体を気遣い、けれど確実に何かを意図している動きが繰り返される。まるで、媚肉の具合を確認するようなグラインドだ。 「んあ……、ひ……ぅ」  痛いわけでも苦しいわけでもないのに目尻から涙が流れる。  初めての感覚を受け止めきれず、颯太の性器は萎み、和の動きに合わせてだらしなく揺れている。全身から汗が吹き出し、体の震えが止まらない。体内に滞留している電流に爪先から頭のてっぺんまで侵されているような、「和になら何をされてもいい」と思っていなければとても堪えられない感覚だった。体が、和に支配されている。 「和さ……ぁ……」 「もういいかな?」  だが、その感覚も中が和に馴染むまでだった。 「動くね……」 「まっ、やっ、あああ……っ!」  抱き締められたまま、優しく奥を突かれる。決して無茶に快感を引きずり出す動きではないのに、数度繰り返されるだけで意識が飛びそうなほど気持ちいい。 「なっ、ん、んっ、ふ、ぅ、ああ……っ」  和の動きに合わせて滲んだ視界が前後に揺れている。次第に大きくなる抽挿は、奥深くだけでなく颯太の中を余すことなく蹂躙した。  和をきつく食んでいる入口から颯太が弱い浅い場所、そして、突かれる度に狂おしいほど和に吸い付く最奥まで。どこを擦られても悦すぎて、与えられる快感を処理しきれない。  頭がおかしくなりそうで怖い。颯太は中を穿たれたながら、力の入らない腕を伸ばして上体を捻った。 「あ……、……ッ」 「颯太?」  だが、和の表情が見えた途端、胸が苦しくなった。 「どうしたの?」 「あ……、この体勢じゃなくて、前からが……」 「ん」  颯太を苛んでいた猛りが引き抜かれ、体を仰向けにして足を抱えられる。和の顎から滴った汗が胸元に落ち、その淫靡さにまたドキドキする。 「颯太?」 「な、んでも、ないです」 「そう?」  颯太が頷くと、和は微笑んで颯太の額にキスを落とした。 「確かにこっちの方がいいね。顔が見える」 「キスも、出来ます……」  そう言って両手を背中に回したら「ほんとだね」と笑われて一際甘いキスが降ってきた。 「ん、ぅ」  そのうえ、膝裏を掴む手に限界まで足を開かれているせいで、泥濘に性器が挿入される様まで見える。颯太は思わず息をつめたが、構えていた刺激は来なかった。  キスで気を良くしていたからだろうか。それとも和に馴染んだからだろうか。先程まで和がいた孔は、じゅぷっと水音を立てながら易々と猛りを呑み込んでいく。 「あっ、ああ……っ!」  颯太は和にしがみつき、押し寄せる快感を逃がそうと背中を反らせた。少し引いていた快感の波が、中を一撫でされただけで戻ってくる。  和の顔が見えるだけで、得たいの知れない怖さは感じなくなっていた。だが、慣れているはずのセックスでここまで前後不覚になるのはおかしい、とも思う。 「ふ、ぅあっ、あっ、んんっ」 「あとあれだね、こっちも触りやすい」  こっち? そう首を捻る前に、和の手が萎えていた颯太の性器を包んだ。 「後ろに挿ってると勃たない人もいるらしいけど、颯太はそうじゃないでしょ?」  構ってあげなくてごめんね、と謝られて呆然とする。挿入の快感だけでいっぱいいっぱいで、性器にまで意識が回っていなかった。 「ひ……っ!」  指の輪で幹を撫でながら陰嚢を揉まれる。手淫なんて何度もしたし、されもしてきたのに、今されている愛撫は別格だった。前と後ろを同時に刺激されると、体が大きく波打ち、言葉にできないほどの射精感が込み上げてくる。 「やっ、やっ、触らな! 待っ、て、だめだっ、てっ……!」 「だめ?」  和は不思議そうな顔をするものの、手も腰も動かすのを止めようとはしない。確かに性器だけ見れば、震えるほど腫れて、茂みを濡らすほど蜜を溢しているかもしれない。だが、颯太の内側は許容を超える快感に苦しんでいた。  なんとか止めさせようと和の手首を掴むが、引きずられて一緒に手を動かしてしまうから意味がなかった。 「それ、あっ、だめっ! 奥っ……奥にほしい!」  颯太がそう言うと、和はその屹立を一気に最奥まで突き入れた。そのまま何度も突き上げられて、喉からは声かもわからない声が出る。 「……っ! ちが、前、離し、て……っ、んん……っ」  ぎゅっと目を閉じながら過ぎる快感に耐える。 「っ、ぅっ、……っ、っ」  だがそれも、息を詰めていたせいで和に窘められた。 「颯太、声出したくないならキスして」  瞼を開けると苦しそうな和に顔を覗き込まれていた。 「……っ、ぅ……、は……っ」  和の手はいつの間にか髪を撫でるだけになり、その抽挿も颯太のペースに合わせて落とされている。飴色の奥には男の欲が色濃く滲んでいるのに、和は少しおどけたように「キスしたいな」と笑う。 「っ、……ちが……っ」 「ちがう?」  颯太は和の胸を押し、自らも上体を起こした。 「え、颯太?」  繋がったまま和に馬乗りになり、今度は颯太が和を押し倒す。途中、中に挿っていた和が弱い場所を掠めていったが、首を振って堪えた。 「ちがう? どうしたの?」  息を吐くだけで何も言わない颯太に、和は驚いているようだった。だが、その質問には答えず、自ら尻を揺すり、硬いままの和の熱に息を漏らす。 「ちが、うって、違います……」  ただでさえ素直になれないくせに、熱に浮かされている時でさえ素直じゃなくなるってどういうことだ。 「颯太?」 「『イヤじゃない?』って、聞いて、ください……」 「え? ほんと、どうしたの?」  困ったように上体を起こした和の首に抱きつき、颯太は耳元でねだった。 「……いいから」  和は颯太の背中を撫でながら、躊躇いがちに聞いてくれた。 「『イヤじゃない?』」 「んん……っ」  意に反して、後孔がきゅっと中を締め付けてしまった。 「っ、颯太……?」  颯太は額を和の額に押し付け、困惑している和の目をじっと見つめた。今から自分が何を言おうとしているのか、考えるだけで顔から火が出そうだ。 「……イヤじゃない、です」 「え?」 「和さんになら何されても嫌じゃない。ただ……た……」 「ただ……?」 「今日はなぜか、悦すぎて、その、俺の体がおかしくて……」  自分が何を言ってるかわからなくなってきて、だんだん伏し目がちになる。 「嫌じゃない?」 「あ……だからその、気持ちよすぎて……」  そこまで言ったところで、両手で顔を挟まれて和の方を向かされた。 「だめ、可愛すぎる」  嬉しそうな顔が視界いっぱいに映って驚いていると、開いた唇の隙間から舌を差し込まれた。 「んぅ、ふっ……っ、ぅ」  口腔を舐められ、きつく舌を吸われる。熱い呼吸を交えながら、無我夢中で舌を絡ませ合った。腰を抱き寄せられて、和の屹立を限界まで挿入される。  ただでさえ質量のあるものが颯太の中でさらに膨らみ、思わず目を見開いた。 「んんっ、ふぅっ、うっ、うぅっ……!」  喘ぐあまり口の端から唾液が溢れたが、それさえ和の舌に舐めとられた。このままでは食べられてしまう気がした。舌も陰茎も、食べているのは颯太の方なのに。 「颯太、好きだよ」 「は……っ、あ……っ、俺、っ、俺も好き……っ」  一度言葉にしてしまえばもう止まらなかった。堰を切ったように「好き」が口から突いて出る。 「可愛い……」  腰を遣いながら和が笑みを浮かべる。もはや自分がどういう状態かわからないが、こんなにぐちゃぐちゃで可愛いわけがない。  でも、和に言われると嬉しいと思ってしまう。 「颯太、気持ちいい?」 「ん、きもちい、っ、です、ぅあっ」  颯太がそう言うと和はふふっと声に出して笑った。 「あっ、なに? っ、な……っ」 「んーん。口数が少ない子が、一生懸命言葉にしてくれるから、照れちゃっただけ」 「和さん、俺が『イヤじゃない』『気持ちいい』って言うの、好き、でしょう?」 「好きだよ? 嬉しい」 「だから、俺、ちゃんと、言います、あ……っ」 「なにそれ、自惚れそうなんだけど」  そう溢す和の顔を見て、思わずしてやったり顔をしてしまった。全く意図なんてしていないのに。 「ふふっ……いくらでも、どうぞ」 「あ。言ったね?」  ベッドのスプリングが軋む音と激しくなる水音、さらに耳元で繰り返される荒い呼吸が狂おしいほど愛しい。 「あっ、も、和さんっ! だめっ、……っ、あっ」 「俺ももう……」  最後の律動を受けながら、颯太は必死で和にしがみついた。キスされながら最奥を突かれ、快感が脳を突き抜けていく気がした。 「ひっ、ああ……っ! ──っっ!」  和が小さく呻いたのが聞こえ、奥へ熱い飛沫が注がれたのを感じた。それとほぼ同時に、颯太も全身を強ばらせ、体の奥で弾けた快感につうと涙を流していた。  好きと言うだけでこんなにも幸せな気分になれるなんて、知らなかった。  颯太が笑うと、今度は和が泣きそうな顔をして笑った。 「好きになってくれてありがとう」
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