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「……私さ。此処に来るまではずっと、堕落しているというか……努力なんてカッコ悪いって思って、生きてきたんだよね。勉強も運動も、何もかも本気で打ち込んだことなんかなくてさ」
異世界転移しても、神様なんて存在が現れることはなく。
身体能力は元のへぼへぼな唯奈のそのまま、便利なスキルなんてものを与えられることもなく、当然無条件で愛されまくるようなチート性能もなく。
生きて目的を達成するためには、地道に頑張るしかなかった。例えそれがどれほど険しく、報われるかどうかもわからぬ茨の道であってもだ。それしかない――むしろ、この世界の自分達に限らず、多くの世界の人々はそうやって生きていくしかないのだと、ようやく唯奈は理解したのである。
勝利がわかっている試合だけに挑める者が、一体どれほどいるというのか。
基本的にはどんな戦いだって、確実に勝てる保証などどこにもない。それでも挑み、本気で戦うことを選び、未踏の大地へと歩むことを選んだ者達がいたからこそ、自分達の文明は進化を遂げてきたのである。
唯奈は思う。きっとただ、その番が自分に巡ってきただけなのだと。
同時に頑張り続ければ、それを見てくれる人は必ずいるということを。この世界で出会った、新しい親友である彼女がその一人であるように。
「報われるかどうかもわかなないのに頑張って、失敗したらカッコ悪いって思ってた。そういう努力をする人を笑ったりもした。……一番みっともないのは、そういう努力をする勇気もないくせに、勇敢な人たちを笑ってマウント取った気になってる自分自身だったってのにさ」
「そうだね。一生懸命頑張ってる人を、頑張ってない人が笑う権利なんか何処にもないよね」
「でしょ?」
「うん。でも、今の唯奈はそれに気づいたし、めっちゃ頑張ってるだろ?だから、それが全てだとあたしは思うけどな。大丈夫さ、確かに勝負に絶対なんてものはないけど……戦い続ける限り、可能性の道が繋がるのは紛れもない真実なんだから」
ね、と向日葵のような笑顔を向けてくるアリシアに胸が熱くなる。
大丈夫、と唯奈も胸の内で繰り返す。
きっと、大丈夫だ。――彼女がそばにいてくれる限り。そして、自分が立ち向かう勇気を忘れない限り、きっと。
「そうだね、アリシア。一緒に頑張ろう……これからも、ずっと!」
門脇唯奈はもう、自分達の運命から逃げない。
己が生きる世界を、けして捨てたりはしない。
生き抜くべき現実は異世界ではなく、目の前に存在するものなのだから。
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