<1・ナナフシギ>

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<1・ナナフシギ>

 女の子という存在は、いつの時代もおまじないやら怪談やらが好きなものと相場が決まっている。――先日、門脇唯奈(かどわきゆいな)が読んだ小学生向けの恋愛小説は、そんな書き出しで始まっていた。  いくらなんでもいっしょくたにしすぎだろうと思ったけれど、唯奈個人に限定すれば強ち間違いでもないと思う。怖いものが好きだ。というより――不思議な力というものに、小学生の女子という存在は興味を示しがちである。  唯奈のクラスでも、怪談話というのはそれなりに流行しているところだ。現在昼休み、教室の唯奈のグループは七不思議の話で持ちきりである。平凡な毎日に、ちょっとしたスパイスが欲しい。不思議な力を持ったり、不思議な体験をしてみたい。そう考えるのは多分、今の子供も昔の子供もさして変わらないことだろう。特に昨今は、ライトノベルで異世界に転生するような話が流行っている背景もあるから尚更だ。 「七不思議って、結構年代によって変遷していってるらしいよ?」  言い出したのは、同じ四年五組のクラスメートにして、唯奈の親友である太田真紀(おおたまき)だ。ショートカットでちょっと明るい髪色をした美人。唯奈にとっては、幼稚園からの幼馴染でもある。 「ほら、トイレの花子さんとかって昔から有名じゃん?でも、今のうちのガッコにはないよね。トイレにいるのは“首吊りカナコちゃん”だし」 「花子さんとか古いもんね。三回ノックしてお返事してくれるだけじゃつまんないし」 「そうそう。昔の学校の怪談とか載せてる短編集読んだけどさ、そこで話終わってて思わずツッコんじゃったよ。だから何?ってかんじで。せっかくならその後面白いイベント欲しいよね。もう少し怖がらせてくれないと怪談らしくないというか」 「うわーお、真紀殿は厳しいでござるのー」  思わずけらけらと上がる笑い声。うちの学校にも七不思議というものは存在している。ただ、ここの学校の卒業生である祖父に聞いたところ(なんとこの学校、戦前から存在しているくらい古いらしいのだ。名前は昔と変わっているらしいけれど)、昔の七不思議はやっぱり種類が違っていたらしい。少なくとも携帯電話を使った七不思議なんてものあるわけないだろ、と言われて納得したものである。  こう考えると、話を伝える子供達の思想に合わせて、噂話というのもどんどん変わっていくのが常なのだろう。確かに、携帯電話がない時代に携帯にまつわる怪談など存在するはずがない。逆に、今は古井戸がどうの、なんて言われても首を傾げてしまうこと請け合いだ。昔学校の裏手にあったという井戸なんか、とっくに潰されてなくなってしまっているわけなのだから。 「音楽室で特定の番号に連絡すると、スマホに幽霊からの着信がある……なんて七不思議なんか超最近のものっぽいもんね」  うんうん、と頷く唯奈。 「せっかくだからどれか検証してみたいと思ったけど、あんまり新しすぎるものって信憑性なさそう。できれば徒労に終わりたくないし。あと、できれば一番怖いのがいいな。うまくいったら夏休みの自由研究のネタにできそうなやつ!」 「ほんと唯奈ってば怪談好きなんだから!あたしも人のこと言えないけどさー」  バンバン机を叩いて笑う真紀。うっかりシャツの隙間から下着の紐がもろに見えている、というのは指摘してもいいのかどうか。彼女はいかにもな姉御肌で、小学生離れした長身のモデル体型だが――少々、いろんなところに隙が多すぎる。足を組んだ時に高確率でスカートからパンツが見えているなんてことは、教えてあげるのが優しさなのかどうなのか。
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