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一問解いては、部活で溢れる校庭を眺める。
ストレッチに勤しむ部員を眺めながら、時々飛び交うキャプテンの怒号に懐かしさすら感じてしまう。
先日、やっとの思いで英語の小テストをクリアして万歳したってのに…
今日に限って噂のひとつやふたつ…全然流れてこなかった。それは多分、俺のクラスが初回だと言うことだ。
見事に惨敗した数学の小テスト。出された課題に、無い頭をフル回転させて、一問一問真剣に取り組む。
それでも一問集中するのが限界だ。
(2日連チャンで休んじまったらレギュラー落とされちまう…)
せっかく掴み取ったチャンスを無碍には出来ない。
早く早くと集中していても、どこかしらから香る甘い匂いには、すぐに気付いてしまう自分。それに小さく胸が熱くなる気がした。
擽る香りが近付く。遠慮がちに椅子を引いて、腰を落とす気配がする。課題のプリントに陰るそれに、そっと顔を上げる。
「理斗……」
「ここ、違うよ」
クスッと微笑み、理斗の綺麗な指先がトントンと差し示す解答。
差し示したそれよりも、相変わらず、女の子みたいに綺麗な指先に目が釘付けになる。
少しだけ、震える肩を誤魔化すように、手に握るシャーペンに力を込めた。
「部活は?」
「昨日試合だったから休み」
「そっか…、でも俺…これ終わったら練習行くぞ?」
「うん、待ってる」
クスクス笑って、ひどく嬉しそうに理斗が話す。
いつもと変わらない理斗を見ながら、先程の瀬名との会話が思考を掠めた。
自然と溢れてしまった言葉は、今更戻すことなんて出来ない。
「……別に待ってなくてもいいから」
「………っ、」
少しずつ、理斗の表情が歪んで変わっても開いた口は塞がらない。
「もっと…、俺だけじゃなくてもっと他に目を向けたって、」
「何で?…なんで急にそんなこと思った?」
全部言い終わらない内に、理斗が被せ気味に俺の言葉を遮る。
(あ…これは怒ってる…)
眉を上げて、睨み付けるような視線に…まるで他人事のようにフッと思ってしまった。
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