あの世あの時あの人に

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気がつくと、橋の上にいた。目的地に着いた。一旦橋を渡りきる。下に流れている川を見下ろしたりしながら歩いた。そして、土手を下った。もう真っ暗でほとんど何も見えない。 「本当に来てくれたんだ...」 不意に、近くで声が聞こえた。高く響く声。女性の声だ。 「あの、あなたは一体...」僕はそっと問いかけた。響いてることからして、橋の真下にいるのだろう。 「覚えてない?私のこと」その女性は少し寂しそうに言った。 「昔、ここに来たことあったよね」僕はポケットに手を突っ込み、スマホを探した。 「ゆうと別れたのもここだったよね」スマホの電源を入れて、ライト機能をONにした。ライトは明るく、足元を照らす。ゆっくりと橋の真下に向けてライトを動かした。 「...っカオリ!!」そこに立っていたのは、カオリだった。 「ふふっ...気づいた?会うの久しぶりだよね」カオリは高校生時代のクラスメート、そして僕の初恋相手。 「でも、留学に行ったんじゃ...」もともと帰国子女だったカオリは高校二年の時、留学に行った。そして、戻ってこなかった。 「てっきり、向こうで働いてるのかと...」混乱している中で、必死に言葉を並べて喋る。 「戻ってきたの。仕事は日本がいいから」カオリは昔と変わらず綺麗だ。ぱっちりと開いた大きな目に、長いまつげがくるんと上を向いている。鼻は高く、顔は小さい。メイクはしていないようだ。よく見るとくまがある。 「そういえば、手紙...」すると、カオリはその場で腰を下ろして真剣な表情をした。僕は自然とカオリのそばにより、腰を下ろした。 「私ね、来年結婚することになったの」僕は、おめでとうと言おうと口を開きまたすぐ閉じた。カオリは喜んでいなかった。顔をしかめて、何度も瞬きをしている。 「私が両親いないの知ってるでしょ?」カオリは静かに僕に問いかけた。 「うん、確かカオリは捨て子だったね。今の親は里親で...」 「そう。私の本当の親は私を捨てた...私は邪魔者だったの...」カオリの声が少し涙声に変わる。 「そんなことないよ。きっと何か理由があったんだよ。」確かこのセリフ...十年前高二の時、言った気がする。 「そっか、理由があって捨てられたんだ...尚更辛いな」でも、返し方が昔と変わってる。昔は「意味もなく捨てるわけないよね」と立ち直っていた。 「今の親は、すごくいい人たちで私にいっぱい尽くしてくれた。だから、その恩返しをしたくて結婚しようと思った」 「ん?どういうこと?」結婚が恩返しに?確かに両親だって喜ぶだろうし、本人も幸せになる。でも、さっきカオリは喜んでいなかった。昔から、男付き合いが多かったカオリ...嫌な予感がする。 「お金持ちの男性と結婚する。それが一番、両親のためになるから」するとカオリは、最後に呟いた。 「好きでもない人と」 この言葉が僕の心に深く突き刺さった。どうしてだろう。前にも聞いたことがある。
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