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そういえばそんなことがあった。僕はいったい何を勘違いしていたのだろう。あんな気軽に『カオリ』と下の名前を呼び捨てにして。
「あの、カオリとか呼んじゃって悪かっ」
すると、春風は僕の言葉を遮った。
「今日はホタルいないね、あの日みたい」あの日、告白した日もホタルはいなかった。
それから、春風は高校時代の話をし始めた。その話は思いの外弾んで、さっきとは違い明るく楽しく喋りだした。最初はただ聞いてるだけだったが、途中から僕も思出話に加わって話し込んだ。何時間喋ったのだろうか?僕たちは話疲れて、静かに夜空を眺めていた。
すると、春風が突然きりだした。
「男って、結局顔ばっかり見るのよね」そう言いながら立ち上がり、僕を見下ろした。
そして、土手をあがっていく。僕は急いであとを追いかける。
「今度結婚する人もね、顔しか見ようとしないの。可愛いねしか言わない。今までもずっとそうだったの」
春風は話しながら、橋を渡り始めた。
「昔もそうだった。外見だけの評価でうんざり」どんどん歩く速度があがっていく。すぐに、橋の真ん中に着いた。
「でも、一人ゆうだけは違った...違っていると思った!」春風は僕を見てニコッと笑った。
「...だった.....に」
ボソッと何かを言った瞬間、突然春風は橋のフェンスを登り始めた。
「さよなら」そう残して彼女はフェンスから思いっきり身を乗り出した。
「っカオリ!!」死に物狂いでフェンスを登り名一杯身を乗り出し手を伸ばした。
なんとか足首を掴んだ。もっと身を乗り出し、彼女を勢いよく引っ張り上げた。
ドサッ。地面にしりもちをつく。
春風は何も言わずボーッとしている。僕は彼女を立たせて、思いっきり春風のほっぺを叩いた。
「バカッ!あのな、僕がいつ顔で選んだと言った?!僕は、笑顔が素敵な明るい優しい人に惚れたんだ!」
そして、彼女を抱きしめた。
「大丈夫、カオリをきちんと理解しようとしている人は必ずいるから。そういう人にまだ会っていないだけだから!両親だってカオリが好きでもない人と結婚することを喜ぶはずがない、望んでない。だから、どちらも笑顔になれる選択をしろ...悩みがあるなら聞いてやるから.....一人で抱え込むのはやめて...」
日が昇りはじめ、辺りがオレンジ色になっていく。顔は見えないが、微かに肩が震えていた。僕は春風を連れて橋の下に戻った。
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