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「――…無事に退院できたようで、安心いたしました。退院早々に出向いてもらい、申し訳ありません」
「いえ、驚きましたけど……。これからお世話になるので、よろしくお願いします」
軽く頭を下げてみせると、「こちらこそ」と奈木さんも頭を下げてくれた。
「さて、こちらは志津野の邸宅なのですが、夏井様は志津野の名をご存知でしょうか」
シヅノ……よくニュースやメディアで耳にする、あの志津野だろうか。
「はい、多分。……あの有名な志津野ですよね?」
こんな豪邸からして、思い浮かぶのはあのシヅノしかない。その志津野は、日本を代表する企業グループでもある。
「想像していらっしゃる志津野で、間違いないかと思われます。志津野グループは、日本の経済界を牛耳る企業集団でありながら、その権力は政界にまで及んでいます」
やはり、あの志津野だろう。
しかし、そんな大それたところへなぜ自分が呼ばれたのか、余計に分からなくなった。
「私は、現トップに君臨する志津野光一様のご子息であられます、次男の治鷹様の、秘書兼侍従をしております」
「え……!」
それって、かなり凄い人ってことだよね!?
目の前にいる奈木さんの正体を知り、驚愕した。
「あの、そんな凄い方が、ぼくなんかに……。どうして、でしょうか……」
ぼくなんかに頼める仕事などないはずだ。早々に、お役ごめんとなるだろう。
「夏井様は、花蜜食人種または蜜花人種というものを、耳にしたことはありませんか?」
「かみつしょく人種? みつはな人種? 何ですか、それ……」
難しい言葉に感じるのは、自分が馬鹿だからだろうか。
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